シド、リリースから1年を経てファンに直接届けたアルバム『海辺』 苦難を乗り越え成し遂げた“最高”のライブ

シド、ファンに直接届けた『海辺』

 5月13日、シドがZepp DiverCity TOKYOで『SID 20th Anniversary TOUR 2023 「海辺」』のファイナル公演を開催した。

 2022年よりマオ(Vo)の喉の不調によりライブ活動を休止していたシドだったが、今年1月に東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催されたオフィシャルメンバーズクラブ会員限定ライブで無事復活。そこから、シド結成20周年のアニバーサリーイヤーがスタートした。

 ツアータイトルの『海辺』は、2022年3月にリリースした通算11枚目のアルバム。“10の愛の物語が流れ着いた場所”という壮大なテーマを掲げた本作品は、20周年という大きな節目に相応しい名盤であった。その楽曲たちが、リリースから約1年の時を経て直接ファンの元に届けられたのが、今回のツアーである。

シドライブ写真(写真=今元秀明)

 こういった経緯から、並々ならぬ意気込みをもってステージに登場した4人。彼らを迎えたのは、待ち望んでいたファンの大歓声だった。今回のツアーから声出しが解禁されたため、多くの観客で埋め尽くされたフロアからは、メンバーの名前を呼ぶ声が絶えず飛び交う。両手を広げて咲くファンの姿を笑顔で見つめるマオが、「もっと!」と言わんばかりに耳に片手を当てると、声援はさらに大きくなる。

シドライブ写真(写真=今元秀明)
マオ

 準備万端の観客たちへ、最初に届けたのは「軽蔑」。哀愁漂うキャッチーなメロディと新鮮なリズムの展開で、シドらしさと新たな一面の両方を見せていく。観客たちは、ゆうや(Dr)のエネルギッシュなドラムに合わせて拳を振り上げ、初っ端から一体感を生み出す。曲の中盤では、明希(Ba)のベースソロやマオのシャウトも決まり、ラストはShinji(Gt)の美しいリフで締めくくった。

 本公演では、主に『海辺』の楽曲が演奏される際、ステージ後方に設置された3つのスクリーンに歌詞が流れる仕様になっていた。その演出が絶大な効果を発揮したのが、2曲目の「大好きだから…」だ。歌詞に隠された呪いの言葉が真っ赤な文字で映し出され、笑顔で演奏するメンバーとのギャップにゾクゾクさせられた。

 「元気?」というマオのラフな呼びかけから最初のMCタイムへ。「マオ復活ということで。今日すっごい楽しみにしてきました。どれくらい楽しみだったかというと、子どものころの遠足くらい(※このくだりは必ずレポートに書いてくださいとマオから要望あり)」。そんな風に冗談を交えて会場を和ませながらも、このステージに懸ける思いを示唆する。後のMCでマイクをとった他のメンバーも、「みんながシドの帰る場所を守ってくれたからここまで実現できたんだと思います(明希)」、「『海辺』ツアーができるのか不安だったときもあったくらいだから、このツアーが開催できて本当に嬉しいです(Shinji)」、「テーマパークに遊びに来た気持ちで、チケット代分は騒いで暴れていいから、みんな元とって帰ろうぜ!(ゆうや)」と、各々の言葉で今の気持ちを伝えた。

シドライブ写真(写真=今元秀明)

 “令和歌謡”というアルバムコンセプトにぴったりハマる「13月」、まるで映画のようなストーリー性を感じさせる歌詞の「街路樹」、冬の情景と来ない待ち人を思い続ける切なさを描いた壮大なバラードソング「白い声」と、『海辺』の中でも悲恋の名曲たちを披露。さらに、「今日集まってくれたみんなのこと、しっかりとぎゅっと包み込む気持ちで歌います」とマオが前置きをして始まった「hug」では優しい温もりを届ける。ステージに舞い戻ったマオの伸びやかな歌声は会場中に美しく響き渡り、シドの音楽を味わえる喜びを改めて思い出させてくれた。そして、中国アニメ『天官賜福』日本語吹き替え版のオープニングテーマにも起用された「慈雨のくちづけ」で、異国情緒あふれる美麗な世界観を存分に表現し、ライブ前半を締めくくった。

シドライブ写真(写真=今元秀明)

 ここから楽器隊によるソロパフォーマンスタイムへ。まずはゆうやが、緩急をつけたパワフルなドラムソロを披露。テクニックを見せるだけでなく、観客たちと一緒に楽しむスタンスは、彼の人柄が滲み出ているようだ。続いて登場した明希は、「オイ! オイ!」とワイルドに煽りながら会場を一つにまとめ、アグレッシブなベースプレイを見せる。ラストのShinjiは、お立ち台に座り、メロウな雰囲気から高揚感あふれる旋律を奏で、観客たちを魅了した。

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