リアクション ザ ブッタ、バンド苦境のコロナ禍で動員を伸ばした理由 TikTokで手にした“楽曲を見つめる新たな視点”

リアクション ザ ブッタ、TikTokで新たな視点

コロナ禍に訪れた、リアクション ザ ブッタにとって異例のヒット

〈「そんな奴別れてよかったよな」って友達の言葉に/「でもあいつは悪くないんだよ」と/なんでかばってしまうんだろう〉

 「ドラマのあとで」という楽曲の一節を切り出した動画がTikTokで話題を呼び、この楽曲を歌うリアクション ザ ブッタ(以下、ブッタ)というバンドは若者を中心に注目を集めた。新型コロナウイルス感染拡大の影響が懸念された昨今のバンドシーンにおいて、数々のアーティストがライブハウスでの集客に苦戦する中、ブッタはTikTokでのアプローチが見事に功を奏し、着実にライブの規模を拡大させていった。ブッタの楽曲はなぜ、若者の心に響いたのだろうか。

リアクション ザ ブッタ「ドラマのあとで」 LIVE MV / Reaction The Buttha - Dorama no atode (After the drama)

 「ドラマのあとで」は2017年12月にブッタがリリースしたミニアルバム『After drama』に収録されている。バンドでソングライティングを担当する佐々木直人(Vo/Ba)がこの楽曲を書き上げたのは25歳の頃。高校時代からバンド一直線で社会人経験のなかった彼は、同年代の友人らのエピソードなどをもとに想像しながら、“働く若者の実らなかった恋の物語”を楽曲に落とし込んだ。

 この楽曲がTikTokを中心にバズり始めたのは2022年6月頃。ブッタはその1年以上前の2021年3月からTikTokというプラットフォームを使い始めていた。運用し始めた当初はMVやライブの一部を切り取った動画やライブの告知動画、弾き語り動画をアップロードするなど、試行錯誤を繰り返していた。数ある動画投稿の中からバンドが見出した手法の一つが「楽曲の一部をリリックビデオ風にしてアップロードする」というもの。実際に〈「そんな奴別れてよかったよな」〉から始まる一節を切り出した事務所の女性スタッフは、「動画が流れ始める最初のインパクトが強い」「1番よりも2番のサビの方が男女、年齢問わずに共感しやすいのではないか」という仮説からこの部分のリリックビデオを投稿。これが功を奏し、「ドラマのあとで」は再生数を伸ばし、コメントには「別れた彼にこう思ってもらえていたらいいな」といったコメントが多数寄せられた。

 TikTokでの注目を受け、バンドは急遽「ドラマのあとで」のライブMVを制作。元々YouTubeにはミニアルバム『After drama』の全収録曲を1つにまとめたMVしか存在せず、TikTokで出会ったユーザーを楽曲のフルサイズに誘導する導線がなかったのである。スタッフはバンドのライブ映像と歌詞を合わせたMVを急遽制作し、YouTubeに公開。公開から10カ月で100万回再生を超えるという、ブッタにとって異例のヒットを記録した。

楽曲のヒットはSNSからリアルへ波及

 「ドラマのあとで」のヒットはネット上に限らず、バンドの主戦場であるライブハウスの動員にも影響し始める。昨年7月頃のライブから若い世代の観客が増え、中には「ライブハウスに初めて来ました」というオーディエンスも。ライブ中、「ドラマのあとで」のイントロが始まると反応があることから、彼らがSNSでバンドに出会ったことは間違いないだろう。物販では「彼女に振られたタイミングにTikTokで知ってライブに来ました」と佐々木に声をかけるファンの姿も。これらの現象を受けて佐々木は「届くべきところに曲が届いていなかったんだなと痛感しました。新曲だからとか、バンドの状態とか、ご時世とかは関係なく、曲が手の届くところにあれば世の中に広がる可能性はある。その結果、若い世代のリスナーに寄り添えたわけだから、僕らはTikTokを使って本当によかった」と振り返った。

 ソロシンガーによる“歌うま”動画やダンス系の動画が注目される傾向にあるTikTokにおいて、バンドという音楽形態を取るブッタはなぜ、ここまで注目される存在になったのか。当事者である佐々木はTikTokという表現の場を「曲やアーティストを身近に感じてもらえるプラットフォームだと思う」と分析しながら、「ドラマのあとで」が注目された理由を語ってくれた。

「ブッタはTikTokと相性がよかったんだと思います。まずブッタがあまり知られていなかったこと。動画を観た人が新鮮に感じてくれることが大事で、そういう意味ではアウェイであることもメリットになったのかもしれません。もう1つは歌詞の書き方。短い30秒でも入り込めるような具体的な描写が、見た人を引き込むきっかけになったと思います。書き手である僕はこのことに気づいていなかったから、2番のサビを選んでくれたスタッフさんに感謝しています」

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