THIS IS JAPAN、コロナ禍を経て改めて見出したバンドの方向性 「このディストーション」で両立した新しさとらしさ
THIS IS JAPANがKi/oon Musicからメジャーデビューしたのは2020年2月のこと。そこから今日まで配信やCDで5作品のシングルを出しているが、アルバム制作はもちろん、大規模なツアーや毎週末のライブはほとんど行えなかったのが現状だ。理由はもちろんコロナ禍。心が折れても仕方がないと思うくらいタイミングは最悪だが、バンドは試行錯誤しながら曲作りを続けていた。テレビ東京系 ドラマ24『シガテラ』のOPテーマとして書き下ろされた「このディストーション」は、かつてないほどポップ、同時に驚くほど激しく簡潔な2分13秒のショートチューンだ。ここまで思い切りのいい新曲が生まれた背景について、メンバー全員に話を聞いた。(石井恵梨子)
杉森ジャックの“自分探し”をずっと見守っていた3年
一一メジャーデビューと同時にコロナ禍に入ってしまったわけですけど、ざっくりした質問として、あれからどんな時間を過ごしていましたか?
杉森ジャック(以下、杉森):なんかこう……当時はそこまで自覚してなかったですけど、振り返るとすごく抑圧されてたなって思いますね。別に何も変わらないように生活することはできるけど、2年半ずーっと天気が悪い、みたいな感じ。可哀想なバンド、って思いますよ(笑)。
かわむら:コロナでいろんな影響があったと思うんですけど、THIS IS JAPANにとっては、全然よくない期間だったと思いますね。特に杉森はすごくフラストレーション溜まってるなって感じで。
一一水元さんはどうですか?
水元太郎(以下、水元):あ……この二人のあとに言うのもアレなんですけど、僕はこの2年半が1年ぐらいの薄さって感じでした(笑)。今にワープした、くらいの感じ。
杉森:いいね。そういう人が一人くらいいるのがいい(笑)。
koyabin:でも僕もわりとずっと平常の感じでしたね。「ライブできない!」とか、そういう焦りも特になくて。わりと流れに身を任せて、いい意味でいつも通り変わらずやれてたのかな。
かわむら:たぶん、ライブをしたいのが杉森と水元で、別にしなくても大丈夫なのがkoyabinと僕ですね。ライブは頻度の問題じゃない。
koyabin:そうですね。僕、生きててそもそもストレスないので。日々のストレスをライブで吐き出してるって感じじゃないから。
一一ライブはあったら当然楽しいだろうけど、なくても大丈夫?
koyabin:まぁそうですね。
杉森:へぇー! ライブのためのバンドだとは思ってないですけど。でもライブってバンドの糧なのは間違いないなって、それは強く思いました。曲作りもやろうとしてたけど、やれる時とやれない時が明確にあって。
一一作る気になれなかった?
杉森:ずっとライブを中心にやってきたし、「ライブでこういう曲やりたいな」とか「ライブで新しい曲やったら反応がよかった」とか、そういうものが一切ないわけですよね。ライブが戻ってきてもお客さんの動きが制限されてるし、どうしても違和感というか、お互い気を遣いながらやらなきゃいけない。今振り返ると、向かう先が見つからないと思ってたんでしょうね。メジャーデビューしたはいいけど、どこに向けて弾を撃てばいいのかわかんない感じ。あと、新曲を作ろうと思っても、コロナ禍で集まれないから一人、部屋で作るしかないんですよね。デスクトップで。それに慣れるまでにかなり時間がかかってた。1~2年はかかったかな。
一一今は、デスクトップで作るのが当たり前になってます?
杉森:そうですね。今は僕がデモを作って、アレンジもだいぶできあがった段階でみんなで合わせて、そこから話し合って変えていく。作り方としては確かに変わりましたよね。
一一曲作りが変わってから、これは一発目のシングルなんですか?
杉森:いや、去年の「トワイライト・ファズ」からですかね。あれが自分の作詞作曲で久しぶりに作った曲。「ボダレス」まではかわむらが作詞だったから。
一一そういえば、しばらくはかわむらさんが歌詞を全部書いていました。
杉森:なんか『WEEKENDER』(2019年)の頃から、自分の作詞の仕方がわかんなくなっちゃったというか。曲は書けるんですけど、伝えたいこととか言葉にしたいこと、なんとなくのイメージはあっても、それを人にちゃんと伝えるところまで考える余裕がなかったんじゃないかなと思いますね。
かわむら:うん、杉森が悩んでたのは見ててわかるんですけど。ただ、かといって「頑張ろうよ!」なんて言葉で言うのは違うだろうし。だからこの3人は「杉森が好きに生きればいいんだよ?」っていう感じで、杉森の自分探しをずっと見守っていたというか。
杉森:……ほんとそう(苦笑)。ダサいけどその通りで。けっこう長いこと自分探しの期間でしたよ。その間はかわむらくんが、付き合いも長いんで、イメージからTHIS IS JAPANの歌詞に仕上げてくれたんですね。
一一今は、ようやく杉森さんが作詞もできるようになったということは……。
杉森:自分がようやく見つかったというか、見つけ方がわかった感じです。自分探しが『WEEKENDER』からなんで、3年かかってますね。
水元:ふっ(小さく吹き出す)。
一一……水元さん、隣で失笑してますけど。
水元:いや、3年って言ってますけど、たぶん11年くらいずっと自分探しやってる気がしますね。
杉森:……結成当初から!
かわむら:あと追加で言うと、まだ探してる途中ですね(笑)。
水元:なんか終わったみたいに言ってるけど(笑)。
杉森:いや確かに終わってないよ。探し方がやっとわかった、くらい。
koyabin:あと、別に曲の作り方とかも変わってない気がします(一同笑)。
杉森:えっ、変わったよね? 変わってない?
かわむら:杉森の中で何かが変わったんだなっていうのを、今、我々は初めて知った感じですよ(笑)。
杉森:いや、僕の中ではだいぶ変わったんですよ。もっと踏み込んで曲を作るようになった。「ボダレス」あたりまではTHIS IS JAPANのメンバーとして曲を作る、みたいな意識で作ってたんですよ。でも今は、杉森ジャックをとりあえず出そう、っていうところからスタートしてる。
一一誤解を恐れずに言うなら、俺がTHIS IS JAPANだ、と?
杉森:いやいや、違います。でも杉森ジャックを出さないと面白くない。物事って、イメージの組み上がったものを目指そうとして組み立てても、必ず小さくなっていくんですよ。でも、とりあえずどうなるかわからないけど自分を出して、あとはバンドでやればなんとかなるだろうって。恥ずかしいこととか、ワケわかんないものも、とりあえず自分を100で出せたなら、あとはバンドで仕上げていけばTHIS IS JAPANになるだろうって感じで曲を作れるようになった。
koyabin:確かに、いい意味で他の3人に気を遣わなくなってると思う。
かわむら:もともと優しいから、すごく気を遣うんですよね。曲作りの時は特に「みんな、どうかなぁ?」っていうところがあるんですけど。でも今は四六時中「俺だ!」って感じになってる。なんか我々のことをバックバンドだと思ってるんじゃないか? みたいな(笑)。
杉森:出たよ(笑)。またそんな言い方する。
かわむら:でもTHIS IS JAPANは結局、杉森が面白おかしく活動できてないと面白くないバンドなんですよ。それはみんなの共通見解としてあって。杉森が強ければ強いほど面白いんです、THIS IS JAPANは。
一一そうなると、koyabinさんはどうですか? ソングライターとして以前は杉森さんと半々くらいのバランスで書いてましたけど。
koyabin:そうっすね。でも「koyabin書いたら?」ってもはや言われないし。
杉森:いや、書いてほしいけどね? いつだって。
koyabin:……どうなんすかね? これ言うと「絶対違う」って言われますけど、僕が曲を書いても杉森さん、あんまり楽しそうじゃないなと思ってて。
一一koyabinさん、もしかしてバンドから気持ちが離れてます?
koyabin:いや、そういうことじゃなくて。僕は杉森さんがやりたいことをやるのが今は一番いいなって思ってる。絶対に僕がこうしたい、みたいな気持ちは別にないし、今は杉森さんの曲をやりたいと僕も思ってるから。
かわむら:うん。フラットに考えると、杉森がやりたいようにやるのがいいんだよなぁって思う。だから「杉森、もっと自分出そうよ!」っていう方向に、バンド全体で向かってるんだと思います。この話もメンバー内で普通にしてるし、全然、心配させてしまうようなことじゃないんです。