藤井風、ピアノ演奏における様々なテクニック カバーやアレンジから垣間見える音楽に対する好奇心

 藤井風が、6月よりアジアツアー『Fujii Kaze and the piano Asia Tour』を開催する。

 飛ぶ鳥を落とす勢いでヒット曲を連発している藤井だが、その勢いは国内に留まらない。昨年7月には「死ぬのがいいわ」がタイでバイラルヒット。その後、タイやアジアに限らず、世界中にその名を轟かせている。タイを初め6都市8公演を周るアジアツアーは、満を持した海外公演と言えるだろう。

 さて、藤井風の音楽の中核を担っているのがピアノである。アジアツアーもピアノ1台とともにパフォーマンスを行うというが、藤井の知名度に火がついたきっかけとなったのもYouTubeに投稿されたピアノカバーや弾き語りの動画だった。

 YouTubeに投稿されたカバー演奏動画は、ジャズスタンダードである「Just the Two of Us」や1970年代より活躍しているピアニスト/シンガーソングライターのビリー・ジョエル「Honesty」、シティポップの名曲として昨今の注目も高い竹内まりや「Plastic Love」、椎名林檎や宇多田ヒカル、ジャスティン・ビーバー、さらには矢島美容室「ニホンノミカタ-ネバダカラキマシタ-」まで、とにかく多様なジャンル、年代の楽曲が揃う。これまで2作出しているカバーアルバム『HELP EVER HURT COVER』『LOVE ALL COVER ALL』もピアノによる演奏。今でこそ自由なスタイルで楽曲を制作している藤井だが、その活動の原点にあるのはピアノの演奏であるのは間違いない。

 ピアノ一台での演奏はそう自由なものではない、と思う人もいるかもしれない。しかし藤井の演奏するピアノには多くの工夫が詰まっている。

 どんなに原曲を忠実にカバーしようとしても、ピアノ一台で多くの楽器のフレーズを全て拾い上げることはできない。そのためフレーズの取捨選択、あるいはアレンジが必要不可欠になるピアノカバーは、そのピアニストの音楽的センスを炙り出すように思う。

「宝島」(吹奏楽) ピアノで弾きました

 吹奏楽ポップスの代表曲「宝島」の藤井によるカバーは、様々な楽器がフレーズを乗せて完成する吹奏楽の演奏に劣らないボリューム感が圧巻だ。右手でメロディを奏でながら、空いている右手の指で和音を押さえるという技もときに使った演奏は、音源だけ耳にすれば連弾であると言われても納得してしまいそうなもの。彼の演奏力とアレンジ力が光る演奏である。

星野源・恋 耳コピ ピアノ

 スパイスを足すようなアレンジも絶妙だ。星野源「恋」のカバーにて、藤井はコードの響きやメロディラインは忠実にカバーしている一方で、節目には装飾のフレーズを加え、終盤には高速ピアノフレーズも加えている。原曲を元にした上でさらに高揚感を煽るような盛り上げ方は、原曲のカバーという点に留まらず、ピアノ演奏としての魅せ方を追及しているようにも見える。

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