SOMETIME'S、ドラマ『全ラ飯』主題歌の制作から得た“栄養” せめぎ合いの中で掴んできた二人が目指すべきもの
SOTA(Vo)とTAKKI(Gt)からなる音楽ユニット・SOMETIME'Sが、新曲「Do what you do ably」を配信リリースした。4月13日スタートのドラマ『全ラ飯』(カンテレ)主題歌として初めて書き下ろし曲に挑戦した彼ら。80'sのサウンド感を中心にしつつ、聴き進めるごとに表情を変える大胆な展開が非常にスリリングな一曲に仕上がった。歌詞でも妖しさや危うさが表現されており、ドラマ主題歌をきっかけにまた一つ彼らの新たな表現の扉が開かれたのではないだろうか。“面白いことを全部やる”をモットーに進められたという本作の意外な制作エピソードをSOMETIME'Sの二人に聞いた。(編集部)
オリジナリティとは何か ここまでの制作を経て掴んできた新たな感覚
――リアルサウンドでの取材は昨年夏以来ですが、『Hope EP』に関するインタビューでは「夏のMagic」について、季節性を限定した楽曲をリリースすることに対する葛藤を話していましたよね(※1)。音楽が産業に変わっていく中で季節性のある楽曲が増えていったと感じている一方、作り手としてはいつ聴いてもいいような曲を作りたい想いがあると。そのインタビューを読んで「なるほど」「そこまで考えるのか」と思いました。
TAKKI:制作中にそこまで考えているわけではないんですけど、できたものをパッケージする時にはいろいろと考えてしまいます。SOMETIME'Sの場合、SOTAのデモに対して自分が歌詞を乗せる機会が多いので、SOTAの作った作品に対して、自分が「こういう曲です」とラベリングしているようなイメージがあるんですよ。そこに対する責任はやっぱり感じますよね。2人で作っている以上、SOTAの意図しないものを歌詞に入れることももちろんありますが、だからこそ、楽曲の自由度を減らすような歌詞はできるだけつけたくないんです。
――SOMETIME'Sは今メジャーレーベルに所属していて、タイアップの楽曲制作をするようにもなり、より産業と結びついた状況の中で活動していますよね。その環境下で都度バランスをとりながら活動しているイメージでしょうか?
TAKKI:産業的な音楽をやることに対する後ろめたさはないんですよ。ジャズやブルースの音楽史を勉強しながらも、J-POPの歴史に対してもポジティブな感覚があるので。ただ、うちのチームにはものすごく個性的なアレンジャーがいるので、「このまま行くとニッチすぎるな」とディスカッションしながら、作品を完成させていく途中でバランスをとっている感覚は確かにあります。その過程で“本物”じゃなくなる感覚に陥ることも確かにあって。
SOTA:“本物”じゃないという感覚はめちゃくちゃ分かるな。例えば「多岐にわたるサウンド」とか「様々なエッセンスを取り入れた」ってよく言いますけど、「エッセンス」って便利な言葉だよなと思っていて。
TAKKI:そうそう。いくら「ジャズっぽい楽曲を作ろう」と言いながらトライしても、正真正銘のジャズ畑の人たちの作品と比べると、劣等感を持つことがあるんですよね。何にトライしてもミクスチャーの域を出ないな、と。
SOTA:メジャーデビュー後の制作では、「なんでもトライしたい」という気持ちや「なんでもトライしなきゃいけないな」というマインドが自分たちの中に結構あったんですよ。だけどそうすることで器用貧乏になってしまう感覚はありますよね。
――振り返れば、2022年はそういったせめぎ合いの中で過ごしていたと。
TAKKI:そうですね。でも、そういう部分が後々オリジナリティになっていけばいいのかな。2022年を経て何か掴んだというよりかは、それ以前の作品も含めた20曲以上の制作を経て、何かが見えてきたような感覚があります。
SOTA:そうだね。特に今回の「Do what you do ably」という曲は、アレンジャーの藤田(道哉)の真骨頂と言える80年代のゾーンで戦っている感覚があるので、その年代が好きな人が聴いても偽物っぽく感じないんじゃないかという自信が持てているんですよ。
先に英語を決めてから日本語を変えていくーーSOMETIME'Sならではの歌詞制作
――では、楽曲について聞かせてください。「Do what you do ably」はドラマ『全ラ飯』制作陣からのオファーを受けて書き下ろした楽曲なんですよね。
TAKKI:実は紆余曲折ありました。まず、ドラマの監督さんやプロデューサーさんと打ち合わせさせていただいたんですよ。その時にエッジの効いた作品だと説明を受けたものの、そのあと台本を読んでみたら、「エッジの効いた設定の中で、ものすごくピュアな物語を描いている作品だな」という印象を受けて。なので、ミドルテンポで、ゆったりと聴けるような、ピュアにフォーカスした楽曲を提出したんです。だけどその曲が先方のイメージと合わず、別の楽曲を作ることになり。改めて先方に話を伺ったところ、「Drug cure」(『Hope EP』収録)のような危うい感じの曲をイメージしているとのことだったので、そこからイメージを膨らませていって完成させたのが、今回の「Do what you do ably」でした。
――危うい雰囲気は、特に歌詞によって演出されている気がしますね。ということで、まず歌詞について伺いますが、Aメロの〈At this very moment〉というフレーズが抜群で、子音でリズムをとっていく感じがすごく気持ちいいなと。SOMETIME'Sの歌詞では日本語と英語が混ざり合っていますが、TAKKIさんは英詞を書く時、どういうところから語彙を引っ張ってきているんですか?
TAKKI:僕は英語が喋れるわけではないので、歌詞を考える時にめっちゃ調べてます。〈At this very moment〉に関しては、確かSOTAがデモで“moment”か“movement”と歌っていたんですよ。そのリズムは生かそうかなと、逆算しながら(英単語の)意味や子音や韻などを調べて、ハマりそうな言葉を探していくんです。この言葉にはどんな前置詞がつくのかというのも調べたりするので、ほとんど英語の勉強ですよね。「これめっちゃハマってるよな」というセンテンスができたら、うちのチームにいる英検1級のスタッフにちゃんと意味が通じているかどうか、相談させてもらって。
――一番重視しているのは、デモでSOTAさんが歌っていた言葉ですか?
TAKKI:リズムと発音ですね。簡単に言うと、言葉が詰まっていた方がいいのか、伸びていた方がいいのかという話なんですが、詰まっているところに日本語を入れるとどうしても忙しなく聴こえてしまうので、子音の多い英語をなるべく入れるようにしています。“この単語は母音が○個で成り立っています”という分類表を見ながら、SOTAの歌っていたメロディに合う英単語の欄をバーッと見ていって、そこから「これはどういう意味なんだろう?」と調べたりして。だから、さっき英語の勉強って言いましたけど、歌詞を書いているうちに英語ができるようになるということはなくて、英語を調べるスキルだけが妙に伸びていくような感じですよね(笑)。で、バチッとハマる英詞ができたら、そこに着地できるよう、日本語を変えることもあります。
――なるほど、日本語のほうを変えるんですね。
TAKKI:そうですね。先に英語を決めてから、その英語が使えるシチュエーションに基づいて日本語の部分を考えていった方がやりやすいです。今回のように、リズムがある曲は特に。
SOTA:TAKKIは僕のデモをかなり緻密にアナライズしながら歌詞を書いてくれているから、歌ってみて違和感を持つことはほぼないんですよ。元々、僕の歌にはこの歌詞が隠れていたんじゃないかと感じるくらいで。
――リズムに対する感覚がすごく近しいんでしょうね。サビの〈An infatuation〉、〈Inebriation〉、〈Saturation〉という押韻も印象的でした。“~ation”という単語がよくこんなに出てくるなと。
SOTA:ここ、久々に全部知らない単語でした(笑)。
TAKKI:(笑)。〈Saturation〉だけは唯一自分が知っていた単語で、飽和という意味が楽曲のイメージに合っているなと思いました。他2つに関しては、歌詞のストーリーに合う“~ation”を探すなかで見つけた単語でしたね。