長瀬有花、下北沢を学ぶ。 ー下北沢SHELTER編ー 店長 義村智秋氏に聞く、多くのアーティストから愛される街の魅力
『長瀬有花、下北沢を学ぶ。 ー下北沢SHELTER編ー』
長瀬有花はバーチャルの世界(二次元)とリアル(三次元)を行き来しながら活動する音楽アーティストだ。“だつりょく系アーティスト”と称されるポップで浮遊感のある歌声が音楽ファンの間でじわじわと話題を呼び、YouTubeで開催したオンラインライブでは最大同時接続数約4500を記録。1stアルバム収録曲「とろける哲学」はTikTokでの総再生回数が1億回を突破するなど広がりを見せている。
リアルサウンドでは、この度『長瀬有花、下北沢を学ぶ。』と題した対談を連載企画としてお届けする。コロナ禍にバーチャル上で活動を始めた彼女が、新たなコンセプトライブの舞台として注目したのが下北沢である。再開発による新しい空気と様々な文化の歴史が共生する独特な街並みは、新しさと懐かしさを併せ持つ長瀬有花というアーティスト像ともリンクするところがあると言えそうだ。本企画では、長瀬有花が実際に下北沢に足を運び、この街ならではのカルチャーや魅力について学んでいく。第1回は下北沢を代表するライブハウスの一つ、下北沢SHELTER店長・義村智秋氏に話を聞きに行った。(編集部)
下北沢SHELTERを、学ぶ。
――義村さん、長瀬さん、今日はよろしくお願いします。
長瀬:だつりょく系アーティスト、長瀬有花です。よろしくお願いします。
義村:下北沢SHELTER 店長の義村です。よろしくお願いします。
――それでは早速になりますが下北沢について学ぶべく、長瀬さんから義村さんにいろいろなお話を聞いていただきます。
長瀬:よろしくお願いします。下北沢SHELTERは、下北沢を代表するライブハウスとしてよく名前をお聞きします。自分もまだまだ勉強中の身ですので、恐縮なのですがまずお聞きしたいこととして、下北沢SHELTERはどんな経緯でできたライブハウスなんですか?
義村:新宿にLOFTという箱があるんですが、SHELTERはその姉妹店なんです。LOFTが今の場所に移転する少し前、LOFTがなくなるかもしれないという話になったことがあったんですが、その逃げ場ということでSHELTERと名付けられて1991年にできました。僕は6代目の店長で創成から関わっているわけではないので、30年の歴史のうち3分の1くらいしか分からないんですけどね。
長瀬:とても歴史のある場所なんですね……。義村さんから見てSHELTERはどんなところが魅力のライブハウスですか?
義村:やっぱり「ライブハウスらしさ」じゃないですかね。最近のライブハウスは客席とドリンクカウンターの場所が分かれていて、対バンライブ中に休憩できるようなスペースがあるところも多いんですが、ここは逃げ場がないので階段を降りて入ったら最後、みたいな感じなんです。ライブ中に会話ができないとか不便な部分もあるんですけど、むしろそういう不便さがいいのかなと。みなさんライブハウスには非現実的なものを求めて来ると思うんですけど、普段爆音にさらされることなんてないじゃないですか。そういう非現実感を体感しやすいライブハウスがSHELTERなのかなと思います。
長瀬:今日初めてSHELTERに入ったんですけど、おとぎ話に出てきそうな大きな時計があったり、内装も含めて非現実的なところも素敵です。
義村:この時計、ちゃんと動いてるんですよ。僕が入る前からありました。
長瀬:そうなんですね! すごーい。それではこの後、あの時計さんにもインタビューしてみようかな~。長い期間SHELTERに勤めている義村さんが、特に思い出に残っているエピソードはなんですか?
義村:一番思い出に残っているのは打ち上げですかね(笑)。大体ライブが終わると打ち上げをするんですけど、ライブが終わった後の風景とか、ライブを終えて帰るだけじゃないっていう空気が印象的で。最近は打ち上げ文化が主流ではなくなってきていますが、僕がSHELTERに入ったときは朝まで飲んだりもしていました。印象に残っていることのひとつとしては、BiSですかね。もともとあまりアイドルのライブはやっていなかったんですけど、前の店長がBiSを呼んでからはBiSやBiSHといったWACK周りのアイドルや地下アイドルも出るようになったんです。BiSは2014年の横浜アリーナのライブで解散したんですけど、その次の日にSHELTERで元BiSとしてライブをしたんです。そのときのチケットが3万円で食べ飲み放題みたいな感じでマックが山のように置かれていて。それはすごく印象的でした。
長瀬:そんな伝説的なライブを行われていたんですね。すごいです……! アイドルとバンドやライブハウスの文化も、SHELTERで混ざり合っていたんですね。
義村:KEYTALKなどもそうですが、出演していたバンドが大きくなっても拠り所にしてくれる、帰ってきてくれる場所になっているのも嬉しいです。そういう家っぽいところもSHELTERの魅力かもしれません。
長瀬:たしかに、自分も入った瞬間になんだか故郷のようなアットホームな雰囲気を感じました。下北沢にはライブハウスがたくさんありますが、ライブハウス同士の交流もあるんですか?
義村:ありますよ。機材を借りたり、バンドについての意見交換をしたり。飲みに行ったりもします。ライブハウスによってそれぞれカラーがあって、バンドにとってもその人たちに合う箱に出たほうがいいので無理にうちに引っ張ってこようとは思わないですが、いざ呼ぶときには相談したりもします。一緒に下北の音楽を盛り上げていこうというマインドが強いかもしれないですね。
長瀬:沢山あるライブハウスが、音楽を愛する気持ちだけで一つになっている姿には自分もとても憧れを感じます。いつか自分もそんな一員になれたらいいな……と思います。そんな沢山あるライブハウスの中で、SHELTERに出演されているアーティストさんのカラーはどんな感じなのでしょうか?
義村:僕が入った当初はオルタナが多い印象がありましたが、オルタナはちょっと減りましたね。やっぱりライブハウスを回す人間が変わると色も変わってくるので。僕はもともとメロディックパンクが好きだったのでそういうバンドが多くなったり、それに付随して日本語ロックのバンドを呼ぶようになったり。あとはありがたいことに、SHELTERはみなさんの“勝負の場”みたいな意味合いの会場にもなっているんです。地元や拠点にしているライブハウスで少しずつ積み上げてきたバンドが、ワンマンや企画をSHELTERでやってみるみたいな。バンド活動の2段階目みたいな位置づけとして捉えているバンドも多いのかなと思います。
長瀬:出演者を決めるためのオーディションなども行っているんですか?
義村:ライブハウスで行われるライブにはアーティストやイベンターさんが主催するライブとライブハウスが主催するライブがありますが、出演希望の連絡は結構来ます。連絡が来た中でいいなと思ったバンドにコンタクトを取って出演してもらうこともありますね。全ての方に返答できてなくて申し訳ないのですが……。
長瀬:YouTubeやSNSをチェックして、出演してもらうかどうかを決めているんですか? なにか決め手になるポイントがあるのでしょうか。
義村:そうですね。音源データが送られてくる場合もあるので、それをチェックしたり。あとはメールの文面でもある程度決めますね。連絡先とかがなくて、音源だけ直貼りして送ってくるのもありますが、出る気あるのかなと思ってしまう。ただ、逆にちゃんとしていないメールの中に面白い人がいる可能性もあるんですけどね(笑)。
長瀬:なるほど。この記事を読んでるバンドさんで、もしSHELTERさんに出演を考えてる方がいたらとても参考になるお話だったのではないでしょうか。
ライブハウスだからこそ体感できる“非現実感”
――ところで義村さんは、今回の企画がきっかけで初めて長瀬さんの楽曲を聴いたとお聞きしました。率直な感想を伺わせてください。
義村:優しい声だなと思いました。ピコピコしているサウンドの曲もあるのでもうちょっと明るい声なのかなと思っていたんですけど、ボーカル面では癒しの要素が強いのかなと。
長瀬:ありがとうございます。とても光栄です。
――長瀬さんのようなバーチャルでも活動しているアーティストと普段接点はありますか?
義村:VTuberという活動の仕方があるというのは知っているんですが、正直全然よく分かっていなくて。世代を言い訳にすると、YouTubeは全然見なくてテレビの方が好きなんです。VTuberの方々がSHELTERでライブをやってきていないというのもありますし、今回のお話で長瀬さんのようにリアルとバーチャルを行き来して活動している方がいることも知りました。
長瀬:そういう方ももちろんたくさんいらっしゃると思います。だからこそ、これからより多くの方々に長瀬有花の音楽を知っていただくためにも、今後バーチャルだけでなく下北沢のようなリアルの場所でもっとライブをしたり、街の方々の目に留まるような活動もしていきたいです。
――長瀬さんは現在、下北沢の様々な場所からライブをお届けするコンセプトライブ『Form』を行っています。第1回目は下北沢の美容室ビードロの店内でライブを行っていましたね。
長瀬:今までお昼に窓から太陽光を浴びてライブをしたことがなかったので、すごく新鮮でした。自然光も綺麗で、美しい映像になったと思います。あと、ライブハウスではなく美容室でライブをやるというのも面白い試みになったのではないかなと。観てくださった方々から「今度行ってみようかな」とか「ここ行ったことある」というコメントもいただけて。実際にある場所で自分が歌っているという部分でも楽しんでいただけたかなと思っています。