矢野顕子、宇宙と向き合うことで知る“命のつながり” 大気圏外の野口聡一とのやり取りから生まれた壮大な楽曲を語る

矢野顕子、野口聡一との共作を振り返る

「知識から生きるための知恵が生まれる」

――その他に、特に野口さんだからこそ書ける、そんな印象の詞はありましたでしょうか。

矢野:ひとつ挙げれば13曲目の「透き通る世界」。これは船外活動を体験した歌詞です。そこにある「死」への感覚が印象深いですね。野口さんは、たとえ子供たちが相手であろうとも、必ず「宇宙というのは死の世界だ」ということをずっと語っています。それは一歩間違えば自分が死ぬかもしれないという怖さだけを言っているのではなくて、私たちが生きているということと「真逆の存在」である、つまり「死の世界」である宇宙への畏敬の念ですね。そこにひとつの生命が向かっていって船外作業をする。そこには恐怖と畏敬と、そして地球があることの心強さ、いろいろな思いが交錯しています。その中で最後に〈Welcome back to outer space, Soichi !〉って書いているんです。それが素晴らしかった。

――そこには、宇宙飛行士である前にひとりの人間としての野口さんの魅力があるように思います。

矢野:はい、その通りです。恐らく今の地球で最も高度な仕事をしている宇宙飛行士に対する尊敬の念は、野口さんを知ることで深まりましたし、私の言葉で言わせてもらうと「いいやつだ!」って(笑)。友だちとまで言ってしまうのはおこがましいと思いますが、私は友情を感じています。曲ができるたびに鼻歌的な録音を野口さんに送って聴いてもらっていて、それぞれ「ここがいいですね」という感想をいただきましたけど、「透き通る世界」に関しては「感動しました!」っていう連絡をもらって、すごく嬉しかったです。

――その「透き通る世界」、地球で生まれて地球に帰ることを歌った「ここにある地球(ほし)」、植物への思いを歌った「育てよう」や「愛しい野菜」など、「命」というものがひとつテーマになっていると感じます。

矢野:宇宙に興味を持っていくと、例えば、私たちが生きていくために必要な大気圏というものが、実は薄く地球を覆っているだけだとか、やはり生きてゆくためには月と太陽の距離が絶妙なのだとか、木星が太陽系の磁場を安定させているとか、いろんなことを知りますよね。その知識から生きるための知恵も生まれる。そう思えば、地球上のどこに生まれようが、どんな環境に生まれようが、生きているということは「等しく同じこと」ですよね。すべてのことが「命」とつながっている。紛争や環境問題が大きなテーマになっていますが、太陽系の中で等しく生きる知恵が必要だと思っています。大袈裟に聞こえるかもしれないけど。

矢野顕子・野口聡一「ここにある地球(ほし)」【Lyric Video】

――「命」というキーワードを持って「音楽と宇宙」がひとつになった、ある意味でこれまでの矢野さんのヒストリーの中でもユニークな作品になったと思います。最初の思いつき、ひらめき、そして弾き語りというスタイルも含めて「矢野流」の結実ですね。

矢野:ラッキーなことに、ここまで「今やりたいこと」を形にさせてもらってきました。やりたいことは常にあるし、スタッフもそれをサポートしてくれています。そういう部分では、いつもと変わらないんだけど、あえて今回のアルバムを作りながら気づかされたことがあるとすれば、人間が大事だ、ということですね。人間、つまり個人個人を大切にしようって。個人を大切にすることが、次に家族、そしてコミュニティーになっていて、そして人類、「命」にもつながるのだと思います。だいぶ途中を端折りましたけど(笑)。こういう言い方もなんですけど、地球でダメだったところが宇宙に行ってよくなるわけでもありませんから。地球で培った人間性やその人のものの見方、面白さが宇宙でも試されるわけです。だから、宇宙に恥じない生き方をしようって思いますね。前から言っていますけど、実際に宇宙に行く夢もありますから、少しカラダを鍛えようかな。あと貯金と援助も必要になりそうですけどね(笑)。

――リリース後の3月24日と25日には東京・大手町三井ホールでコンサートがあり、ライブ配信も予定されています。生演奏での『君に会いたいんだ、とても』はどんなものになりそうですか。

矢野:コンサートの構成は少し悩みました。もちろんアルバムの曲は全曲演奏する予定で、加えて皆さんが聴きたいと思ってくださるナンバーも入れていきたいので、宇宙空間の曲と地球上の曲をどうなじませるかを考えています。きっと、いい感じになっていると思いますので、楽しみにしていてください。

矢野顕子・野口聡一『君に会いたいんだ、とても』

■CD商品情報
矢野顕子・野口聡一
『君に会いたいんだ、とても』
2023年3月15日(水)発売
完全生産限定盤(CD+Blu-ray):¥6,600税込

ダウンロード/ストリーミング
https://jvcmusic.lnk.to/KiminiaitaindaTotemo

<CD>
1. ドラゴンはのぼる
2. ごらん
3. ここにある地球(ほし)
4. 育てよう
5. 月と地球とドラゴンと 
6. 南極にいきたい
7. 青い夜
8. 宇宙を歩くひとたち
9. おかえり、はやぶさ2
10. 愛しい野菜
11. 巡りゆく月
12. ここに いるはず
13. 透き通る世界
14. 雲を見降ろす

<Blu-ray>
①SPACE SESSION (Reading Video)
②「ドラゴンはのぼる」Music Video
③「ここにある地球(ほし)」Music Video
④矢野顕子・野口聡一 対談

■ライブ配信情報
『君に会いたいんだ、とても』リリース記念ライブ
矢野顕子の歌とピアノで宇宙へ行こう。

日時:3月25日(土)17:00開演
アーカイブあり:〜3月31日(金)23:59まで
視聴チケット¥3,850(税込)

Streaming +
https://eplus.jp/akikoyano-0325stp/

ZAIKO
https://akikoyano.zaiko.io/item/354774

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