ずっと真夜中でいいのに。が体現する“新しい普遍性” 伝統と革新が散りばめられた表現を著名人の言葉から紐解く

ずとまよ、伝統と革新を散りばめた表現

 1月14〜15日に国立代々木競技場第一体育館で開催された、ずっと真夜中でいいのに。(以下、ずとまよ)の単独公演『ROAD GAME「テクノプア」~叢雲のつるぎ~』が3月11日に『ROAD GAME「テクノプア」~叢雲のつるぎ~ 解』と題してABEMA PPVで独占配信される。これにあたって、事前特番『What is ZUTOMAYO? -ずっと真夜中でいいのに。とは何なのか?-』がABEMAで無料配信された。

 ライブ映像とACAねのコメントに加え、「綺羅キラー (feat. Mori Calliope)」でずとまよ初のフィーチャリングゲストとして招かれた、チャンネル登録者数220万人超え(2023年3月9日現在)のVTuberラッパー・Mori Calliope、ずとまよのMV制作に携わるアニメーション作家・こむぎこ2000とはなぶし、ミステリー作家・綾辻行人、ボイストレーナー・おしら、映画/音楽ジャーナリスト・宇野維正というずとまよを愛する面々が出演し、コメントを寄せた。番組で配信されなかったものも含め、その濃密なコメントから「ずとまよの魅力/特異性とは何なのか?」を紐解いてみよう。

 ずとまよが初めてYouTubeで映像を公開したのは2018年6月。アニメーション作家/イラストレーターのWabokuが手掛けた「秒針を噛む」のMVは、カバー動画やファンアートなどを介して一気に拡散され、約一週間で新人のMVとしては異例の20万回再生を記録するという鮮烈な登場だった。その約半年後に、初のミニアルバム『正しい偽りからの起床』がリリースされた。

ずっと真夜中でいいのに。『秒針を噛む』MV

 宇野は『正しい偽りからの起床』について、「この時点からとにかく楽曲の引き出しが多く、『何人で曲を書いているんだろう?』と思ったが、作曲はほぼACAねが手掛けていて驚いた。時間が経つにつれ、奥行とバリエーションが広がっていくケースは珍しくないが、はじめからソングライターとしてもシンガーとしてもこれだけのバリエーションがあるのは10年に一度クラスかもしれないと思い、その予感がだんだん確信に変わっていった」とその衝撃を語った。

 綾辻は、「歌詞、メロディ、楽器隊の演奏、MVが複雑に結びついた多面体もしくは多層構造になっている。それはプロジェクトとして狙っているところもあるだろうが、中心にあるのはACAねのパーソナルなところから生まれた楽曲。それをいろんな角度から解釈して展開させていき、ユーザーが受け取った時の情報量の密度が半端ではないので、何回も観て聴いてしまう」と、最初から強烈な中毒性があったと話した。

 稀に見る多層構造の中心を担っているのはACAねが手掛ける楽曲。日本特有の哀愁漂うメロディに伝統的なポップスの影響を感じさせながら、海外のトレンドも柔軟に取り入れ、1曲の中で多彩な音楽性が感じられる。

 宇野は、「自分は松田聖子や小泉今日子や中森明菜の楽曲が流行し、歌謡曲の優れたソングライターとシンガーが活躍していた頃に子供時代を過ごした。歌謡曲のある種のノスタルジーみたいなものを、ずとまよの音楽を通して感じる。しかし、ずとまよはラップとボカロしか聴かない自分の10代の子供にも好まれている。ずとまよの楽曲にはボカロ以降の圧縮したアレンジや展開があり、ラップミュージックに通じるビートの感覚も同居している。今の全世代が聴ける新たな普遍性を持つところが、ずとまよの音楽のすごいところ」だと熱弁。

 そして、「70~80年代の歌謡曲は世界中の様々なジャンルや流行を貪欲に吸収していて、象徴的だったのは筒美京平による楽曲。ずとまよの『正しい偽りからの起床』に収録されている『サターン』を最初に聴いた時に、リズムのアレンジ、ストリングスの使い方、ギターのカッティングなどから、これはかつて筒美京平がやっていたディスコ歌謡だと思った。それと同様のことを2021年にリリースされたアルバム『ぐされ』に収録された『胸の煙』にも感じた」と続けた。

ずっと真夜中でいいのに。『胸の煙』MV(ZUTOMAYO - One's Mind)

 そのコメントを受け、ACAねは、「学生の頃から中森明菜や小泉今日子の歌謡曲を歌っていて、フリーソウルや70年代ディスコが好き。それがずとまよの楽曲の隠し味になっている」と宇野の指摘に賛同した上で、「それらのジャンルはすでに完成されているので、壊して新しいものを加え、汚したりする作業が好き」だと話した。

 新たな普遍性を宿した楽曲を歌いこなすACAねの歌唱もまた伝統と革新が同居している。おしらは、「本当に音域が広い。高い声の抜け方、伸び方が人間の楽器としての限界を突っ走っているスーパーシンガー。例えば『残機』終盤のハイトーンは音源だと柔らかめの歌声を出しており、それはずとまよの様々な楽曲で使われている歌唱法だが、ライブではなぜか地声で歌っている。地声であれだけの高い声を出すことはすごく難しいはずだが、ACAねはそれができる」と評した。

 さらに、「ACAねは正式な歌詞とは別の意味でも捉えられるような発音をすることがある。そのずとまよならではの言葉遊びを探すのが新曲を聴く時の楽しみのひとつである」とも話した。

ずっと真夜中でいいのに。『残機』MV (ZUTOMAYO - Time Left)

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