草彅剛が『罠の戦争』鷲津亨を演じるのは必然だった 眼差しの凄みから伝わる信念
いくつもの意識の層を感じさせる、眼差しの凄み
淡々と日常を送りながらも、静かに燃え続ける怒り。そんな表面上の感覚と、心の奥深くにある感情とを同時に表現できるのも、草彅の持つ演技力の真髄といえるだろう。犬飼をはじめとした事件のもみ消しに加担した人物を次々に追い詰めていく鷲津。その勧善懲悪な展開は視聴者も胸がすく思いなのだが、どこか鷲津の表情は晴れない。いや、むしろ1人またひとりと失脚に追い込むごとに、彼の瞳は冷ややかになっていく。
鷲津は強い者に抗うための力をつけようと、自ら選挙戦に出馬する。有権者の前で涙ながらに「力をください」と熱弁するシーンは胸を熱くするものがあった。だが、息子の眠る病室で妻に語った「あの瞬間ふと思ったんだ、犬飼さんならこんなとき泣いて土下座してるなって。そしたら、涙、流してた」という言葉にハッとさせられた。
きっと鷲津があの演説で口にした言葉に嘘はない。しかし熱がこもるほど、どこかパフォーマンスめいたものになってしまっていく感覚。そして正しいことをするために力をつけたいのに、力を持つために危うい金の受け渡しを指示しているという自己矛盾。
そんな自分が自分でなくなっていくような心の揺らぎを感じながらも、家族の前以外ではそのブレを一切見せない。しかし、だからこそ今度はその瞳の奥の本音が読みにくくなっていく。そんな何層にも意識が分かれている演技を、なんとサラリとやってのけるのだろうか。
鷲津をサポートする秘書の蛍原梨恵(小野花梨)や蛯沢眞人(杉野遥亮)らが「信じて大丈夫だよね?」と時折不安になってしまうのと同じように、私たち視聴者も「応援していいんだよね?」と少しだけ怖くなる。そんな観る者の背中をゾクッとさせる凄みが、草彅の眼差しにはある。
こうした掴みどころのない感覚は、草彅がバラエティなどでさらけ出す素の姿とドラマや映画などの演技との大きなギャップにも通じるところがある。あんなにも少年のようにはしゃぎながら、こんなにもシリアスな作品で心を掴んでいくなんて、と私たちはずっと驚かされてきた。
その切り替えはきっと小手先のテクニックなどではなく、感覚的なものなのだろう。そして、そうした直感で他の人が真似できない能力を発揮できる人のことを、私たちは「天才」と呼びたくなるのかもしれない。
天才的な演技力を持つ俳優・草彅剛が、全力で私たちを罠にはめようとしている。ならば、思いっきり引っかかろうではないか。ここから後半戦、さらなるどんでん返しで、世の中の話題をかっさらっていってほしい。
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