NewJeans「Ditto」「OMG」MVは2010年代への回帰? K-POPのMV史を振り返る

2010年代後半からは「考察」できるMVが人気に

EXO 엑소 '으르렁 (Growl)' MV (Korean Ver.)

 このように2010年前後までは目立っていた「ストーリーものMV」の後、もうひとつの流行の発端となったのはEXO「Growl」(2013年)ではないだろうか。ワンショット撮影によって最初から最後までダンスだけを純粋に見せるようなMVは、ダンスパフォーマンスに定評のあるSMエンターテインメント所属のEXOの長所を最大限に見せると同時に、「未知の世界(太陽系外惑星)から来た新たなスター」という当時の設定や謎めいたヒントが散りばめられたコンセプトティーザーとセットでリリースされることで、EXOのシグネチャーとなった。以降はパフォーマンスを主体としながらもMVやティーザー動画に「謎解き要素」のようなミステリアスだったり文学的にも思えるような多彩な引用を仕込むことで、ファンが繰り返し動画を見るという新たな「考察文化」が生まれていった。K-POPのダンスパフォーマンスの進化と共に、ストーリー仕立てや謎解き要素のあるMVとは別にダンスパフォーマンスをメインで見せる別バージョンの映像が登場するようになったのも、2010年代半ばごろからだろう。

BLACKPINK - ‘뚜두뚜두 (DDU-DU DDU-DU)’ M/V

 2010年代後半以降は、K-POPファンダムが世界的に拡大してゆくにつれて、SNSのハッシュタグや拡散から世界的に知名度を拡大していったグループが登場し、YouTubeなどでのMVの再生回数が億単位に移行していった。時にはそれ自体がニュースになったり、YouTube動画の視聴回数がカウントされるビルボードチャートが意識されるようになっていく。まさに「アイドルファン総スミン(曲や動画の再生回数を上げるためだけに繰り返し視聴=ストリーミング再生する行為)時代」に突入すると、「再生回数そのものに価値がある」という価値観がアイドルファンダムの間にも広まっていった。それに伴って楽曲やMV自体が繰り返し再生されることを意識してか平均して3〜4分に短縮。その中に最大限キャッチーで目を引くようなビジュアル的要素を凝縮して見せる傾向が強まると、必然的にMVのフレームごとの情報量も増えていった。

 この傾向は現在まで続いており、平均的なMVの長さは4分台まで、本編MVとは別のパフォーマンスバージョンを後からリリースするというパターンはすでに定番になっている。

コロナ禍以降のK-POP MVはどのように進化するのか

NewJeans (뉴진스) 'Ditto' Official MV (side B)

 先述のNewJeansの場合、デビューEP『New Jeans』関連のMVはストーリー仕立てのものでも3分以下〜4分台までとタイトにまとめている。一方、「Ditto」と「OMG」の場合は5〜6分と、比較的長めの尺だ。これはデビュー以降の反応を踏まえたアンチテーゼ的な戦略かもしれないが、結果的には10年ほど前の“ザ・K-POP”的なMV戦略に対する温故知新のようにもなっているのではないだろうか。過去の傾向との違いがあるとすれば、歌詞の内容と関連した部分はあるものの、MV本来の役割である「楽曲を盛り上げるための映像」というよりは、むしろ映像のBGMとして楽曲が存在しているかのような作り方であり、楽曲とビジュアルの主体が逆転しているようにも見える。

 K-POPも第4世代に入り、コロナ禍の影響もあってファンダムがそれまでK-POPを聴いていなかった層にまで広がりを見せる一方で、再生数に依存するような熱狂は全体的に落ち着いてきている。それに加えファンの数自体が増えたために、MVや楽曲が数億再生されることが常態化した現在では、単純な視聴回数のアピールポイントとしての効力は以前より薄くなっているように感じられる。それでもビジュアルにとことんこだわり、資金を惜しまないという韓国の社会的傾向も反映し、視覚的な華やかさを重視して楽曲にさらに強いイメージを付与するというスタイルで、インターネット時代を象徴する文化のひとつにもなっているのが今のK-POPのMVと言えるのではないだろうか。今後もさまざまなスタイルや手法で、視聴者の耳目と関心を惹きつけるようなコンテンツ制作は続いていきそうだ。

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