三枝明那、樋口楓、夢追翔……VTuberとロックの関係性 ルーツと特徴を楽曲や歌声から探る

 バーチャルアーティスト、あるいはVTuberという単語は人々の間に浸透して久しい。2016年にキズナアイが誕生し、多種多様なインフルエンサーが所属するバーチャルライバーグループ・にじさんじによって第二の爆発が起きたバーチャル界は、無視できないほどに大きなものとなっている。しかしながら、広がった彼らの活躍と一般層の認識に多少の誤差はあるかもしれない。キズナアイの名があまりに大きいため、バーチャルアーティストと聞けば美少女が歌って踊るというイメージを持っている人もいるだろう。あるいは二次元VTuberの火付け役、月ノ美兎のように特徴的な声で雑談やゲーム実況をすると思うかもしれない。

 たしかにそれらもバーチャルで活躍する人々の一面だ。だがそれだけのイメージにとどまるのはあまりにももったいない。活動スタイルやジャンルが多岐に渡る彼らの中から、今回はロックを歌うバーチャルアーティストの音楽的ルーツに焦点を当てて紹介していく。アニメやゲームの延長を超えた彼らの歌声や、画面の向こうの遠い存在に見える彼らと同じ音楽経験を見つけて親近感を覚えていただければ幸いだ。

バーチャルロックを牽引するにじさんじ

 やはり、VTuberとロックを同時に語ろうとすれば避けては通れないのが昨年10月に行われた邦ロックカバーライブ『NIJIROCK NEXT BEAT』だろう。ライブ評についてはリアルサウンドテックに記事(※1)が存在するためここでの詳細な言及は省くが、アイドル的な性格の強かったライブイベントにロックを持ち込み、それが成功を収めたことは大きなターニングポイントだっただろう。まずは、その出演者を中心ににじさんじライバーから紹介していこう。

青春ロックの風を感じるハイテンションライバー 三枝明那

 『NIJIROCK NEXT BEAT』のトップバッターをつとめ会場を盛り上げたのが三枝明那だ。ユニバーサルミュージック所属のグループ・Rain Dropsのメンバーとしても活躍している。軽妙なトークもさることながら、歌で大きな支持を集めるライバーだ。

勿忘 – 三枝明那 & 森中花咲 (cover)

 抜けるようなハイトーンボイスでありながら力強い歌声はDISH// 北村匠海などを思わせる。デビューした2019年は「ヤンキーボーイ・ヤンキーガール」「Q」を除いてボカロ曲などのインターネット発楽曲を歌っておらず、所属事務所にじさんじの中でも邦楽ロック、J-POPに強いライバーの一人だろう。

 『NIJIROCK NEXT BEAT』の前身である「邦ロックリレー配信01」ではGalileo Galilei、the pillows、andymoriを「邦ロックリレー配信02」ではTHE ORAL CIGARETTES、My Hair is Bad、flumpool、サンボマスターを歌うなど、2000年代前後の邦ロックがルーツにあるようだ。その他にも時折SMAPを歌ったり嵐縛りのカラオケ配信をしたりなど、ジャニーズ楽曲好きの側面も垣間見える。

 『NIJIROCK NEXT BEAT』では、サカナクション「モス」、BBHF「ライカ」、フレデリック「オドループ」を歌った三枝。アニメ主題歌やネットミームなど、ネットカルチャーにリーチしながらもしっかり盛り上げるような上手さが彼のパーソナリティだ。バーチャルアーティストに触れるきっかけとしてはピッタリの人物だろう。

にじさんじの歌のご意見番 樋口楓

 にじさんじにおいて音楽を語るときに欠かせないのが樋口楓だろう。にじさんじ結成当時から在籍する、いわゆる“一期生”で、ランティスに所属するメジャーアーティストとしてアニメ主題歌を担当したこともある。

【MV】樋口楓「Baddest」ミュージックビデオ【8/25発売シングル「Baddest」収録】

 真っ直ぐで力強い歌声を持つ一方で、竜胆尊、リゼ・ヘルエスタとのコラボユニット・i’s(イーリス)で『ラブライブ!』楽曲のカバーもしている。LiSA「赤い罠(who loves it?)」のような大人な楽曲やヨルシカ「ただ君に晴れ」など爽やかな楽曲も歌い上げる振れ幅も一つの魅力だ。

 トランペットの経験があり、スカやファンクなどのインストも好む。「TOBI-DERO!」などはそうした彼女の経験が生かされている楽曲の一つだろう。にじさんじ内でもかなり多くのファンメイドソングを歌っていることも特徴の一つ。軽音楽部に所属していた両親や部活の顧問、さらにはファンなど周囲からの音楽的影響を飲み込み、彼女なりに発信していくことこそが彼女の音楽性だと言えるだろう(※2)。

夢を追いかけ続けるシンガーソングライター 夢追翔

 にじさんじには「バーチャルシンガーソングライター」を名乗っているライバーも存在している。「夢追い続けて28年」という挨拶がトレードマークの夢追翔だ。カバー楽曲や提供楽曲を歌うことの多いにじさんじの中で、作詞、作曲、歌唱まですべて一人でこなすことができる、まさに肩書通りの人物だ。『NIJIROCK NEXT BEAT』出演者の一人でもある。

夢追翔 MV「オリジナリティ欠乏症」(Kakeru Yumeoi – Originalityless)

 にじさんじバラエティ企画きっての司会者である彼の歌声は、文字の一つひとつがすっと入り込んでくるような響きを宿している。音域が広く、高音パートが登場する楽曲や女性ボーカリスト楽曲を原曲キーで歌っても全くと言っていいほど違和感がない。King Gnu「三文小説」や椎名林檎「公然の秘密」などはその好例だ。

 アーティスト縛りのカラオケ配信をすることが多く、amazarashi、米津玄師、BUMP OF CHICKEN、RADWIMPS、ポルノグラフィティ、ELLEGARDEN、B’z、L’Arc〜en〜Ciel、スキマスイッチ、サザンオールスターズなど多岐にわたる。『NIJIROCK NEXT BEAT』ではamazarashi「フィロソフィー」と自身のオリジナル曲の二つに時間を割き、amazarashiのアルバムジャケットなどを担当したYKBXにキービジュアルを依頼していることなどから、その影響の大きさが窺える。

 歌詞やタイトルに一筋の影を落とす彼の楽曲からは、澄んだ響きでその意味が入り込んでくる。暗さも孕んだ気持ちをダイレクトに伝える彼は、(廃墟と化したライブハウスを背景に雑談配信を行うことも含めて、)にじさんじで一番amazarashiに近い男かもしれない。

完璧なパフォーマンスを提供するトリックスター ジョー・力一

 次に紹介したいのはジョー・力一(じょー・りきいち)だ。白スーツのピエロという奇抜な風貌の彼だが、あるあるネタや極貧エピソードを多数持つ視聴者との距離感の近いライバーだ。しかし最大の特徴は、そんな二つの顔ともまた違う、しっかり決めたハイクオリティな歌を歌うところだろう。

悲しみの果て/町田ちまとジョー・力一(Cover)

 歌声も多面性に富む。基本的には芯を持ちながら伸びてゆくミドルボイスだが、ハイトーン、がなり、女声的なファルセットなどを自在に出すことができる。歌ではないが、独特な擬音語で曲を再現する「口テレレ」を特技としており、「インスト歌枠」なるものや電気グルーヴのDJプレイの再現などをこなす。

 上に挙げたもののいくつかは、彼のルーツに関連があるだろう。彼はそれぞれ、平沢進、筋肉少女帯、B’z縛りの歌枠を行っており、そのどれもが元のアーティストに寄せた歌い方をしている。自分の好きなアーティストの曲を歌いこなせるほどまで精度を上げる彼のパーソナリティによるものだろう。

 努力をあまり表には出さず、披露するときには完璧に仕上げ、それゆえにいくつもの違う場面を見ることになるジョー・力一。気にかけていれば、急に自分に刺さる歌を届けてくれるかもしれない。

にじさんじで一番「ロック」が似合う男 加賀美ハヤト

 VTuber界隈のロックを背負って立つ存在だと自分が目しているのが加賀美ハヤトだ。オリジナル曲「WITHIN」のデモ版を携えてライバーデビューし、『NIJIROCK NEXT BEAT』ではトリをつとめた。現在はにじさんじ男性4人組グループ ROF-MAOとしても活動している。

【MV】加賀美ハヤト – WITHIN【にじさんじ】

 ド級の厚みのあるミドルボイスから繰り出される圧巻のシャウトはバーチャルアーティスト随一で、時折見せる低音フロウのラップも合わせてLinkin Parkを思い起こさせる。裏返りと余韻を巧みに操りセクシーに歌い上げることもできる。

 初の歌配信である「邦ロックリレー配信01」にて、ELLEGARDEN、NUMBER GIRL、9mm Parabellum Bulletなどを歌っており、2000年代前後の邦ロックが原風景にあることが窺える。ゲーム画面に現れた“DEAD END”の文字を皮切りに、キャラクターのサイコパスな言動に次々とthe GazettEやシドの歌詞を見出して勝手に興奮したりとヴィジュアル系にも関心があるようだ。メタルにも造詣が深く、SiMやマキシマム ザ ホルモンといった邦楽メタルはもちろん、誕生日配信ではARCH ENEMY、Killswitch Engage、そしてLinkin Parkを歌っており広範にメタルに対する知識を持っている。

 他のバーチャルアーティストからは出し得ない歌声と選曲ライブラリーを持つ加賀美ハヤトだが、ガンプラやカードゲームなどの少年向けホビーを愛好しているという一面を持っている。ぜひ歌も配信も鑑賞してそのギャップを体感してほしい。

何者にも縛り付けられないシンガー 緑仙

 語らなければならない存在がもう一人いる。緑仙(りゅーしぇん)だ。三枝、力一と同じく『NIJIROCK NEXT BEAT』出演者であり、Rain Dropsにも所属している。性別は一貫して秘匿している一方、10代のにじさんじライバーには珍しく順当に歳を取り、仙河緑というフルネーム(?)を公開しているなど、嘘か真実かわからない掴みどころのなさが大きな特徴だ。

イツライ / 緑仙 (Official Video)

 中性的な声は、少女のように可愛らしく響くこともあれば、男性もかくやという力強さを持つこともあり、そうかと思えばエロティックな曲を女声キーで歌い上げ、男性アイドルソングも歌いこなす。変幻自在ながら不思議と芯のある歌声を持っている。

 そのルーツについても本人以外に語り尽くすことは不可能と言っていいだろう。最新の流行シーンの“歌ってみた”をコンスタントにアップロードしている一方で、古いアニソンや歌謡曲、特撮ソングなど手広い楽曲を歌う。作品の文脈を辿ることが好きだと語っており、曰く自分の知識をそのまま世代に反映すると40代、50代になるとのことだ。

 いつか自分の好きな曲を歌うかもしれないどころではなく、すでに好きな歌を歌っているかもしれないほど底しれぬ広がりを持つ緑仙。まずは「あらすじ的なすごいやつ」を聴いてその声が気に入れば、ぜひ聴き込んでみて欲しい。いくら掘り下げても魅力の尽きないアーティストだ。



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