PANTA(頭脳警察)×鈴木慶一(ムーンライダーズ)=P.K.Oが突然の再始動 古希を超えた今だからこそ紡げる言葉と音楽

 頭脳警察のPANTAと、ムーンライダーズの鈴木慶一。ほぼ同世代のふたりが出会ったのは、日本のロックの金字塔とも言えるPANTA&HALの1979年作品『マラッカ』制作前のこと。当時のPANTAのディレクターの紹介により、鈴木慶一がプロデュースを務めたのだ。それをきっかけに親友のようになったふたりは、1988年に渋谷公会堂で行なわれた『COVER SPECIAL』というイベントで、初めて一緒にThe Doors、The Beatles、Jefferson Airplaneなどのカバー曲を演奏。そこから発展したユニットがPanta Keiichi Organization、即ちP.K.Oだ。

 P.K.O (Panta Keiichi Organization)は1993年~1994年に何度かライブを行ない、その時期のライブを収録したCD『P.K.O. LIVE IN JAPAN』が2006年にリリースされたものの、30年近く活動はなかった。ところが、ここにきて突然の再始動。初めてのP.K.Oオリジナルとして、12月25日に「クリスマスの後も」と「あの日は帰らない」の2曲が配信リリースされた。そしてそれは、ジワっと心があたたまる味わい深き大人のポップスだ。なぜ今、再始動なのか。この2曲にどんな思いを込めたのか。一緒に取材を受けるのはめったにないというふたりは本当に仲が良く、楽しそうで、笑いの絶えないインタビューとなった。(内本順一)

10年前だったらPANTAはこういう歌詞は書かなかったかもしれない(鈴木)

ーーまずは90年代の一時期に活動していたP.K.Oをこのタイミングで再始動することになった経緯から聞かせてください。

PANTA: では、ざっと鈴木慶一のほうから(笑)。

鈴木慶一(以下、鈴木): P.K.Oは1993年と1994年に何度かライブをやっているんです。いわゆるライブバンドだったんですよ。そのときにやっていたのは、カバーとか、お互いの曲を交換して歌うとか、そういったこと。それでP.K.Oとしての活動は一旦お休みとなり、それからはやっていないんです。とはいえ、P.K.Oの名前を使わずにPANTAとライブしたり何か作ったりすることはあって、切れ目はないんですよ。例えば2012年には『ボクの四谷怪談』というミュージカルがあって。

PANTA: 橋本治が1976年に書いた処女作に近い戯曲で、当時は上演されなかったんだけど、2000年代に入って蜷川幸雄さんが「あんな作品あったよね」と引っ張り出してロックミュージカルに仕上げたのが、『ボクの四谷怪談』なんです。その音楽を担当したのが鈴木慶一で。

鈴木: サウンドトラックを作る際に、役者さんに歌ってもらうと権利関係とかが大変だってこともあって、PANTAに歌ってもらったりした。そういったことが点々とあってね。それで、PANTAは酒を飲まないけど、渋谷B.Y.Gのオーナーの案内でいろんなお店をクルージングしたりカラオケに行ったりしたこともあって。2022年に入ってからも「食事しよう」ってことで、何人かで食事したんです。その別れ際に、どうやら私が「なんかやろう」と言ったらしい。その記憶は定かじゃないんですけどね。それからすごいスピードで曲を作っていって、できた曲をPANTAに送ったの。それが「クリスマスの後も」で。だけど、反応がなくてね。

ーーどうしてだったんですか?

PANTA: だって、いきなり曲だけ送られてきたから。これをどうしようというの?  慶一は何をしたいの?  俺は何をしたらいいの? って、いろんな疑問が錯綜して。だけど言葉にして聞くのも野暮じゃないですか。だからずっといろんなことを考えていて。

鈴木: 反応がないとなると、こっちも考えるよね。つまらないと思ったのかな? とか。だから、そのあとまた3曲送ったんですよ。でも、それも聴いたのか聴いていないのか、反応がない。それで「とりあえず会おうよ」と連絡して。

PANTA: 慶一が引っ越してまだ1年ばかりのアジトに行ったわけです。

鈴木: あのアジトに人が来るのは初めてだったんだよ。それで話してみたら、PANTAは全部聴いていた。「あのイントロは60年代に流行ったあの曲を思いだすよね」とか、そんな会話もして。

PANTA: そこでいろいろ話を聞かせてもらってね。「クリスマスの後も」の歌詞についても聞かせてもらって、改めて「これはいい歌だなぁ」と。初めに送られてきたときは〈ずっと一緒に いようね〉というフレーズをどう解釈していいのかわからなかったんだけど、話しているなかで、「いろんな人に響く言葉だよね、ファンにも自分の身内にも届く言葉だし、病に倒れている人にも健常者にも、いろんな人に響くね」って。俺は、「クリスチャンじゃないのにクリスマスクリスマスって騒ぐんじゃねえよ」という意味を込めた『UNTIX’mas』というイベントをずっと続けてきて、2022年で21年目になりましたけど、そこで慶一から送られてきたこの「クリスマスの後も」を歌うのも一興かなと思って。

鈴木: それで、「じゃあキーを決めよう」と言って、すぐに制作に入ったんだよ。キーは低めにしよう、シャウトしないで優しく歌おうと。「クリスマスの後も」だけは私が作詞作曲したけど、ほかの曲の詞はPANTAが書くと言ってくれて。そうして始まりました。今、今回配信する2曲を含めて5曲あるんだけど、PANTAからあがってきた歌詞を見たときは、ぶったまげましたよ。

ーー食事した際に慶一さんが「なんかやろう」と言ったのがきっかけとのことですが、その時点でP.K.Oをやろうという気持ちは……。

鈴木: そのときはなかった。録音に入ってからだね。「これはP.K.Oにしちゃおうよ。ふたりでやっているんだから」と。つまり、約30年ぶりにP.K.Oが動きだして、オリジナル曲を初めて作ったと、そういうことになります。

PANTA: 慶一は自分のPCに「PANTAと一緒」っていうフォルダを作ってくれて。見たとき、「これがタイトルだったらどうしよう?!」って思ったんだけど。

鈴木: 私は「PANTAと一緒」ってタイトルもいいかなと思ったんだよ。

PANTA: それだと歌詞の意味合いが変わって、BLの世界になってくる(笑)。

鈴木: 「PANTAと一緒」ってフォルダにしておけば、私が死んで誰かがPCを開けたときに見つけてもらえるかなと思ってね。

ーー慶一さんはPANTAさんが歌っているというイメージの元に曲を書いていったわけですか?

鈴木: そう。そうすると、どんどんできるんだな。これも「PANTAと一緒」フォルダだよなと思いながら作ると、どんどんできる。

PANTA: また、慶一の曲がどんどん俺を触発してくるんだよ。メロディの温度感に引っ張られて、今まで自分になかったものがどんどん引き出される。だからもう楽しくて楽しくて。「あの日は帰らない」みたいな詞は、今までの俺からは絶対出てこないからね。

ーー素晴らしい化学反応ですね。

PANTA: 確かにこれは化学反応だね、本当に。

ーー逆に、これほどの化学反応が起きるのにどうしてこれまでオリジナル曲を作らなかったのか、不思議なくらいです。

鈴木: 2022年だから起きる化学反応なんじゃないかと思う。

PANTA: ああ、そうかもしれないね。

鈴木: 例えば10年前だったらPANTAはこういう歌詞は書かなかったかもしれないし。わからないけどね。たらればはないけど、でも古希を超えて今だからこそ出てきたものだったんじゃないかとは思うね。

PANTA: 古希を超えて〈好きなんだ 好きなんだ〉って歌うのはどうなんだ? っていうのもあるけどね(笑)。でもまあ、ムーンライダーズは『It’s the moooonriders』というアルバムを作って11年ぶりに人見記念講堂でレコ発ライブをやって、自分も頭脳警察の50周年を経ていろんなことが吹っ切れてね。もうソロと頭脳警察をそんなに分けなくてもいいんじゃないか、何をやってもいいじゃないかっていうモードになって、それがP.K.Oのアイデンティティでもあるのかなって思う。どこに行ってもいいんだし、やりたいことをやろうっていうね。レコーディングもそう。現場主義というか、その場で思いついたことをどんどんやる。それが楽しいんですよ。

鈴木: その場で思いついたことを、とりあえずなんでもやる。「じゃあ、次はギター弾いてよ」とか急に言いますからね、私は。いや、PANTAのギターが私は好きでねえ。タイミングもフレーズも最高なんですよ。ラインでダイレクトに録るから、隣で弾いているわけだけど、指を見ていると、次はここに行くんだろうなと思っているところに行くんだよ。それはつまり、ボーカルをやる人のギターのプレイなんだ。歌いながらスティーヴ・ヴァイみたいには弾けないじゃない?  だから、歌をうたう私にはよくわかる。PANTAはベースもそうだけど、抜群のタイミングで弾くんだよ。

PANTA: ふたりともボーカリストでありながらギターを弾くから面白い。

鈴木: 「野生のエルザ」という曲を録ったんだけど、それはふたりで同時にギターを弾いている。歴史に残る面白さだよ。PANTAは左利きで、私は右利きでしょ。だからソファに並んで座って弾けるんだ。

PANTA: 動画録っておけばよかったね、あれ。

鈴木: そうだね。PANTAがギュギュギュってやると、そうくるなら私はこう行きますよって、その場で応えて。それで一発OK。非常に楽しいレコーディング。楽しくてしょうがない。

PANTA: 言葉がいらないの。説明もなし。どうせ説明なんていい加減なもんだからね。慶一は子供みたいに弾くんだよ。慶一のおもちゃ箱がそこにあるような感じで。

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