藤井風の2022年は“微風”から“暴風”に 『紅白』を前に世界に向けて動き出した1年を振り返る

 藤井風の活動を追ったドキュメンタリー番組『藤井 風 いざ、世界へ』(NHK総合)が12月28日に放送された。番組では夏頃から世界的にヒットしている「死ぬのがいいわ」についての本人含めた様々な人からの証言をはじめ、10月に開催したスタジアムライブの裏側や、インドでMV撮影を行った新曲「grace」の制作秘話など貴重な映像が公開された。最後に藤井はこれからの活動について聞かれると「言葉の壁を越えて喜んでもらえるようなものを出していきたい」と答え、今後の音楽活動への意気込みを覗かせた。世界への扉の前に立ったと言える今年。大晦日の『NHK紅白歌合戦』への2度目の出場も決まり、来年以降の活動により一層大きな注目が集まっている。そこで改めて、2022年の藤井風を振り返っておきたい。

 2022年の藤井風は、年始に「ねそべり紅白」と題したYouTube配信で幕を開けた。これは視聴者のリクエストにリアルタイムで応えてピアノの弾き語りによって即興でカバーしていくというもので、YouTubeにて無料で不定期で行っている配信だ。その中で藤井は恒例となっている書き初めを披露した。掲げた言葉は「藤井微風」(微風は“そよかぜ”と読む)。これについて彼は「みんなに気持ち良いっていう感じになってほしい。心地よく爽やかに盛り上げて行けたら」とコメントし、この一年の指針を示していた。

HAPPY NEW YEAR 2022 - ねそべり紅白

 そんな“微風”な一年を振り返ると、スケジュール的にはかなり“強風”な一年だったと言える。まず1月にEP『Kirari Remixes (Asia Edition)』をリリースし、3月には2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』を発売。一年の間で「まつり」、「damn」、「grace」という3曲の新曲を発表し、それぞれにMVが制作された。さらに5月からは全国29カ所32公演を巡るツアー『Fujii Kaze alone at home Tour 2022』を敢行。10月には自身初の有観客野外ライブ『LOVE ALL SERVE ALL STADIUM LIVE』を開催し、現在は全国8カ所16公演を予定したアリーナツアー『LOVE ALL ARENA TOUR』を開催中。加えて8月には急遽出演キャンセルとなった盟友のVaundyの代わりに『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』に登場し大きな話題を呼んだのも記憶に新しい。このようにリリース、ライブイベントともに精力的に励んだ一年であった。

 また、アーティストとして新しい領域に踏み入れたのも今年のトピックの一つだ。4月に放送された『藤井 風テレビ with シソンヌ・ヒコロヒー』(テレビ朝日)ではお笑い芸人とコントに挑戦し、ステージ上とは打って変わってその茶目っ気たっぷりの人柄を視聴者に届けた。5月には音楽雑誌『MUSICA』の巻頭特集で8万字に及ぶインタビューを受けている。それまで音楽メディアにはほとんど登場してこなかった彼だが、ついに自分のことを話し始めたのだ。インタビューでは自分を作らず、力の抜けた、飾らないナチュラルな受け答えが印象的だった。今後彼からどんな言葉が放たれ、どのように変化していくのかにも注目だ。

 “微風”をテーマに活動していたわけだが、そこは時代の寵児。選ばれた者の宿命というべきか、結果的にその穏やかな風は下半期には“暴風”になっていた。夏頃から「死ぬのがいいわ」がグローバルヒットを巻き起こし、今年世界で最も聴かれた日本の歌となったのだ。『藤井 風 いざ、世界へ』によれば、この曲は世界23カ国の音楽チャートで1位を記録。藤井風のストリーミングサービスでの月間リスナー数は邦楽アーティスト史上初の1,000万人を突破したという。海外のファンが急激に増加したことで、今ではネット上の彼の作品や投稿に世界中の言語が飛び交うようになった。

藤井 風 - "死ぬのがいいわ" Live at 日本武道館 (2020)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる