XGのラップ動画はなぜ世界規模でバズった? COCONA、MAYA、HARVEY、JURINのスキルを検証

XG、ラップスキルを検証

 仕事として真摯にアイドルと向き合うのは難しい。アーティストなら作品やパフォーマンスの良し悪しで判断すればいい。しかし、特にBTSの大ブレイク以降、アイドルは(表面的とはいえ)パーソナリティと作品が明確に不可分となった。現代のアイドルを推すという行為は、1人の人間(とその集合体)の成長、生き様を見ることだ。そうなると良し悪しでなく、好き嫌いの話になる。推す人の数だけ基準があるから定量化しづらい。というか、できない。人間は多様で複雑だからだ。つまりアイドルを論じる場合、客観的視点はそれほど意味をなさない。あくまで判断材料のひとつであり、会話のネタのひとつ。このテキストが推しの新たな魅力を発見するきっかけになれば幸いだ。

[XG TAPE #2] GALZ XYPHER (COCONA, MAYA, HARVEY, JURIN)

 というわけで、今回は編集部の方に「[XG TAPE #2] GALZ XYPHER (COCONA, MAYA, HARVEY, JURIN)」を教えていただいた。同動画は公開から約1カ月でYouTubeは700万再生、TikTokでは1,100万再生超えを記録しているという。そのほかYouTubeのコメント欄に英語のコメントが多く寄せられていること、海外ユーザーが同映像に対するリアクション動画をYouTubeやTikTokに多数あげていることからも、国内外で話題になっていることが伝わってくる。XGについては、名前は知っていた程度でしっかり追ってなかった。確かにこの動画や、後にアップされた「TEST VIDEO」と題したパフォーマンス映像もものすごくかっこいい。己の不勉強を反省しつつ、XGの4人が参加したサイファー動画を深掘りしてみたい。

 ラップとはリズムに特化した歌唱法である。ただ、いくらリズム感が良くてもメトロノームのようにずっと同じ調子では飽きてしまう。ラップは楽しく踊るための雑多なエンターテインメントなのでグルーヴしていてほしい。そのためにラッパーは声の出し方や節作りを工夫する。リリックで韻を踏むのもリズムを出すため。さらに音程やメロディで自分だけの味付けをする。これらを総称して“スキル”と呼ぶ。OZROSAURUSのMACCHOは〈アカペラで聴けねえ ラップじゃねえぜ〉(「24 Bars To Kill」)というパンチラインを残しているが、極端な話、ラップはアカペラでも客を踊らせるほどのエネルギーが要求される。故に安定感ある発声は基本。むしろこれがないと話にならない。声はデカければデカいほどいい。同時に表現の中で緩急を使い分ける。このエネルギー伝達は“バイブス”と表現してもいいだろう。

 これらを前提に「GALZ XYPHER」を紐解こう。一番手のCOCONAが選んだビートはJ.I.D「Surround Sound」(ちなみに、J.I.D本人も本映像を見て「She went crazy!!!」とInstagramのストーリーズでコメントしていたという)。イントロでサンプリングされているのはアレサ・フランクリンの名曲「One Step Ahead」。〈I know I can't afford to stop for one moment(一瞬も止まることはない)〉というラインをサンプリングしたクラシックだと、DJ プレミアがプロデュースしたMos Def「Ms. Fat Booty」も有名だ。J.I.Dが所属する<Dreamville>はクオリティコントロールされたクリエイティブが特徴のヒップホップレーベル。このチョイスからもXGのスタンスがうかがえる。

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