イヤホンズ 高橋李依×やぎぬまかな対談 「タイムカプセル」で表現される子供時代の自分との対話

イヤホンズ高橋李依×やぎぬまかな対談

 イヤホンズがデジタルシングル「タイムカプセル」をリリース。今作は「手紙」をテーマにした連続楽曲配信企画の2曲目にあたり、楽曲制作はシンガーソングライターのやぎぬまかなが担当した。今作は一曲の中で「タイムカプセルに入れる手紙を書く自分」と「それを読む自分」が対話するような構成になっており、メンバーそれぞれが声優として活躍するイヤホンズだからこその表現力が光る作品となっている。

 リアルサウンドでは、イヤホンズ・高橋李依と楽曲を制作したやぎぬまかなを招いた対談を企画。やぎぬまがこの曲に込めた想い、そして高橋はどのように曲を解釈したのか、じっくり語ってもらった。(編集部)

「イヤホンズの音楽はゆっくり咀嚼するみたいな感覚」(高橋)

──イヤホンズがコンセプトEP『identity』をリリースしてから、1年過ぎました。

高橋李依(以下、高橋):イヤホンズで活動していると、あっという間ですね。みんながそれぞれ声優業をやりながら、何か作りたいものが生まれたときに集まって作品を発表するというやり方なので、ありがたいことに「もっと早いスパンで曲を出してほしい」と渇望してくださるコマクちゃん(=イヤホンズのファンの総称)もいらっしゃるんですけど、それでも私はこのペースで満足しているんです。それに、毎回コンセプトがしっかりあるからこそ、「なんとなく生まれました」みたいなことはないんだろうなと思っています。

──聴き込んで咀嚼して理解するまでに時間を要する作品が多いので、実は今のペースって理想的なのかもしれないですね。

高橋:そうですね。「音楽=食事」みたいに楽しむのもすごく素敵ですが、イヤホンズの音楽はそういう感覚よりも自分から手を伸ばしてゆっくり咀嚼するみたいな、消費しちゃうのが勿体ない音楽といいますか。そんな感覚があります。

──そのグループが今年結成7周年を迎えました。

高橋:自分も10年近く声優のお仕事をやらせていただいていますが、今思うとこういう機会にめぐり会えたことってすごく幸運だったなと思います。同じ志を持って、真面目に一生懸命取り組む仲間たちに出会えて本当にうれしいです。

──ちょうど結成5周年の節目のタイミングからコロナ禍と重なり、思うように動けない時期もあったと思います。そんな中、今年1月に久しぶりにお客さんの前でライブを披露。イヤホンズとしては3年ぶりの有観客イベントでした。

高橋:そうでしたね。準備をいっぱいしていた中で台風に見舞われて延期になって、次はコロナで中止になってしまい、そういった状況が続くと悲しい、寂しいというよりも私の場合は怒りの感情が前に出て、「早くライブやらせて!」みたいに逆に燃えてきちゃって。なので、みんなの思いが高まって3年越しにライブができたときは、じんわり感動というよりは「待ってました!」とパワーが溢れるような気持ちでした。

──そこを経て、この10月からは連続配信リリース企画がスタート。イヤホンズにとっては新しい試みですよね。

高橋:この企画のコンセプトとなっているのが「手紙」で、手紙を題材にすることは理解できたんですけど、どこから攻めるのかなと。手紙と言われてもそのアプローチは無限大だから、私たちが背伸びしたら勿体ないし、それこそ自分たちが無理して演じるのも聴いていて痛々しいだろうなと思ってしまったので、どれだけ等身大で手紙に寄り添えるのか、ちょっとそわそわしていました。

──その上で、第1弾の「在りし日」はどのような気持ちで臨まれましたか?

高橋:「在りし日」は矢野絢子さんの楽曲で、矢野さんがこの曲を生み出したときのコンセプトを知らずに歌詞を読んだら、すごくそのときの自分の状況に刺さって。「なんて素敵な、みんなに寄り添ってくれる曲なんだろう!」と思っていたら、盗まれたバイクの歌だと知り、「えっ、この感動は?」みたいな(笑)。そのくらい書き方が巧みといいますか、何か失ったものがある人に寄り添ってくれる楽曲になっていて、今回のコンセプトでプロデューサーがやりたかったことはこういうことだったのかなと認識しました。

「タイムカプセル」の歌詞は「本当に10歳の頃に考えていたこと」(高橋)

──続いての第2弾楽曲が、やぎぬまかなさん作詞・作曲による「タイムカプセル」。やぎぬまさんは今回のオファーをいただいたとき、どんなことを考えましたか?

やぎぬまかな(以下、やぎぬま):最初にプロデューサーさんから「『手紙』というコンセプトで楽曲を作ってほしい」という企画書をいただいて。コンセプトが「手紙」であれば、曲調とか「誰から誰に宛てた手紙」とかそういったこともすべてお任せしますと言われたんです。それでまずめちゃくちゃ悩んで。手紙といえどもメッセージアプリのメッセージとか、会話ではなくて文字を介したやり取りでもいいとおっしゃっていただいたので、最初はイヤホンズが3人組であることを活かしたくて交換日記をテーマに曲を作っていたんです。でも、どうにもうまくまとまらず、もう1曲違う方向でデモを作って完成したのが、自分から自分に宛てたこの「タイムカプセル」でした。

高橋:そうだったんですね! 今回、歌詞の1番と2番を通して同じ人間が成長している姿を表しているんですけど、同じ人物像を3人で歌うことって7年続けてきたイヤホンズの得意なことなので、すごくうれしかったです。

やぎぬま:そう聞いて安心しました(笑)。

──タイムカプセルというキーワードは、どこから導き出したものだったんですか?

やぎぬま:手紙っていろいろあるじゃないですか。そんな中、重めのラブレターみたいなものは自分も楽曲として書き切る自信がなくて。自分は親でもないから、親から子に宛てた手紙も書けないし、いろいろ除外していく中で「あ、タイムカプセルだったら書けそうかな?」と手応えがあって、書き始めました。

──こういう10年前の自分と今の自分が、ひとつの歌詞の中で対比として登場する楽曲って珍しいですよね。

高橋:確かに。声優の仕事で考えても、1人のキャラクターが10年の時を経るっていうのは、稀にアニメの最終回で演じるか演じないかですね(笑)。それもあって、声優としてやりすぎると本当に演じ分けちゃうんです。今回はタイムカプセルを題材にした「手紙」を歌っているのもあって、あえて舌っ足らずにしたりという技法を使わず、声で演じすぎてしまわないようにしてほしいということはディレクションでいただいたことでもありました。

──だからなのか、1番から2番の成長を自然に受け取ることができます。

高橋:自然に手紙の交換ができたというか、会話がつながっているなと感じています。

──そういう歌詞を表現する際、メロディや曲調ではどういったことを意識しましたか?

やぎぬま:私はもともとバンドをやっていたので、打ち込み主体というよりはバンドサウンドのほうが得意ということもあって。でも、バキバキのバンドサウンドと手紙というコンセプトを結びつけるのが難しそうだなと思ったので、優しめで温かい感じのサウンドが合うのかなと思って、制作していきました。

高橋:この曲、本当に大好きなんです。

やぎぬま:ありがとうございます(笑)。

高橋:本当に好きで、どこから好きという気持ちをお伝えしたらいいのか……これ、続けるとひたすら褒め続けちゃうことになるんですけど(笑)、まずタイムカプセルというテーマで歌うときに、このテンポ感がすごく気持ちよくて。たぶんタイムカプセルを開けるときの心拍数って、このくらいなのかなという気持ちが湧いてきました。

やぎぬま:ああ、確かに。

高橋:自分も同じ感覚で、タイムカプセルを開ける瞬間を感じられる気がしましたし、歌っていても言葉をひとつずつ、自分に届け合うみたいな。話し言葉の速度がすごく好みだったなという思いと、選ばれた題材といいますか、前髪の癖だったり苦手な食べものだったり……。私のパートにある〈そもそも生きていますか?〉って、本当に10歳の頃に考えていたことなので、素晴らしいなと思って!

やぎぬま:小学生の頃ってよく「10年後、自分は生きているのかな?」って思いましたよね。

高橋:街中ですれ違う人を見て、「私も高校生になったら、これぐらい大きくなるのかな? そもそも生きているのかな?」と思ったり。

やぎぬま:そもそも小学生の頃は私服で、中学に上がったら制服を着る自分が想像できなくて。

高橋:そうです、そうです! 自分の世界のすべてが詰まっているような、等身大感がすごくリアルだったし、私もそうだったぶん昔の自分に会えたような気がしました。1番を歌いながら当時の自分に感情をシフトして、2番になったときに今の自分を振り返ることで「昔の自分って、愛おしいな」と思ったというか。「今の私って、昔の私になんていうふうに説明できるかな?」とか、愛おしい昔の私に恥じたくないなと。大人なりのうまい言い方でこの子にお返事してあげたいな、という気持ちが湧いてきて、不思議なやりとりができちゃった気がして……すごく大好きなんです!

やぎぬま:そこまで言ってもらえて……恐縮です(笑)。

高橋:自分の言葉のように歌わせてもらえるのは、本当にうれしいといいますか、すごいなと感じております。自分の人生ってずっと地続きなわけで、私も今こういうふうに声のお仕事を好きでずっと続けているんですけど、この1番の歌詞に該当する手紙を書いている頃の自分はたぶん声優の仕事って意識していなかったし、将来の夢というのも発表しろと言われたから発表していたくらいで。

やぎぬま:私もまさにそうで、小学生の頃の私は自分が働くこともあまり想像できていなくて。あの頃は夢を聞かれたら条件反射で言っていただけで、〈今は将来の夢はないけど〉という歌詞はまさに私自身のことですね。

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