『ハケンアニメ!』で注目集める高野麻里佳、飛躍の鍵は独自のキャリアにあり? 声優としての葛藤も

 現在公開中の映画『ハケンアニメ!』。群野葵役として、声優の高野麻里佳が実写映画初出演を果たしたことも話題となっている。本稿では、今まさに飛躍中の高野について、その理由と魅力を探っていく。

 高野は2014年に声優デビュー。2015年、テレビアニメ『それが声優!』(TOKYO MXほか)の小花鈴役を務め、高橋李依、長久友紀とともに作中に登場する声優ユニット・イヤホンズを結成。アニメ放映終了後もイヤホンズの活動は継続し、2021年からはソロアーティストとしても活動の幅を広げている。声優としては『ウマ娘 プリティーダービー』(TOKYO MXほか)にてサイレンススズカ役を務めたことでも話題となった。

 アニメ業界で闘う者たちを描いた物語である辻村深月による小説が原作の『ハケンアニメ!』。高野は、吉岡里帆演じる主人公・斎藤瞳が描くアニメ『サウンドバック 奏の石』のトワコ役を務めるも、演技の方向性について何度も斎藤とぶつかり合う、アイドル的人気を誇る若手声優・群野葵役で出演した。

 そんな役どころを演じるのに、元々声優以外の活動も広く行っていた高野の経歴がマッチした。その経験の豊かさは、今の彼女の魅力のひとつだ。

 デビュー当初から多くのアニメに出演していた一方でイヤホンズとしての活動歴も長く、そのほかにも番組出演など、声の出演以外の活動経験も豊富な高野。「おこがましい言い方ですけど、アニメで声の出演よりも、番組や雑誌、そしてライブといった顔だしの出演のほうが多くなりつつある状況に迷いがあったんです。声優なのに歌うんだとか、声優がオモテに出るんだっていうところに違和感を持つファンの方たちも多いだろうなって」(※1)と葛藤していた時期もあったという。

 『ハケンアニメ!』で群野葵役を演じるにあたって、「「わたしはこの子の気持ちがわかるかもしれない」って思ったんです。わたしは別にアイドル的人気があるわけじゃないですけれども、今までいろんな仕事をしてきて、声優とは言われてこなかった時期もありましたし(笑)。声優のお仕事をしていても、表に立っている時間が長いと、なかなか声優だと受け入れてもらえない時期がありました。自分がやりたいことと世間からの認識のギャップがあった思い出があるので、そういう人の悔しい気持ちや、みんなの前では笑顔でいたいというプロフェッショナルな気持ちを、きっとわたしなら演じてあげられるかもしれない」(※2)と語っているように、今回の実写出演は高野自身が迷いのあった経験ともリンクする役柄であった。

 声優がアーティストデビューすることやテレビ番組に出演することは昨今珍しいことではないが、高野のように、声優デビュー当初からどちらの活動も途切れることなく行っていた例は多くはない。イヤホンズとして、また声優の1人として様々な媒体に露出してきた高野の経験は、今の彼女を構成する大事な要素のひとつとなっており、それゆえの『ハケンアニメ!』の出演だったとも言えるだろう。

 また、高野が持ち合わせている声色の豊かさも、今回の役柄で発揮された彼女の魅力のひとつ。

 『それが声優!』では、中学生ながら芸歴10年のベテラン声優という役を演じた高野。子役らしい幼い声色と、アフレコシーンでの迫真の演技のギャップは作中で主人公を驚かせ、同じキャラクターでありながらまったく異なる声を演じ分けた。同じように、『ハケンアニメ!』でも、高野は声優役として出演している。群野葵として斎藤と言い合うシーンやイベントに登壇するシーンもあるが、多くはアフレコ現場でトワコの声を演じる場面。それも、斎藤に応えるために様々な声色で収録するシーンが描かれており、繊細でありながら分かりやすい声の変化、「群野葵役」から「群野葵が演じるトワコ役」への変化のある複雑な役柄を、絶妙な声色や感情表現の変化で見事に演じた。

 その自由自在な表現力は歌声にも見出すことができる。高野が所属するイヤホンズは、音楽ユニット□□□の三浦康嗣が手掛ける「あたしのなかのものがたり」(2018年)や「記憶」(2020年)など、リズミカルな語りのようなパートのある複雑な構成とそれに応えるイヤホンズ3人の技量が光る楽曲や、音楽クリエイターギルドバンド 月蝕會議が手がける発想力豊かな「循環謳歌」(2020年)など、その音楽性も評価されている。昨年からスタートした高野のソロ活動は、1年で2枚のシングルと1枚のアルバムをリリースし、ソロ1stライブも行うというスピーディな展開を見せた。バラエティ豊かなアルバム収録曲は高野自身が全ての楽曲のテーマを提案し、それによって自身の声色や表現を変えたという。その引き出しの多さやチャレンジ精神は、前述したような声優として演じる際の表現力にも通じるものがある。

イヤホンズ「循環謳歌」音楽構成Movie
高野麻里佳 1st LIVE ~夢みたい、でも夢じゃない~ Digest (for J-LODlive2)

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