アヴリル・ラヴィーン、鮮烈に印象づけた“ロックプリンセスの堂々たる帰還” 8年ぶり来日公演を徹底レポート

アヴリル・ラヴィーン、来日公演レポート

 11月9日、アヴリル・ラヴィーン来日公演の東京会場となった東京ガーデンシアターには多くのファンが詰めかけ、約8年ぶりとなるライブパフォーマンスを心待ちにしていた。開演前の会場にはGreen Dayやblink-182、Simple Plan、Yellowcard、The All-American Rejectsといった1990年代後半から2000年代前半を彩る懐かしいポップパンクの名曲群が流れており、近年のポップパンクリバイバルの流れを改めて実感する。

 だが、今回の来日公演には、そうしたリバイバルの流れ以上に大きな意味が存在していたように思う。それは、「キャリア史上最も苦しい日々を乗り越え、再評価の勢いと共に帰還を果たした、偉大なるアイコン=アヴリル・ラヴィーンの復活」だ。

 まずは、近年のアヴリルを巡る再評価について簡単にまとめておきたい。1990年代後半から2000年代前半にメインストリームを席巻したポップパンクのムーブメントにおいて、自らが手掛けた楽曲によって10代半ばで驚異的なブレイクを果たしたアヴリルの登場は、当時の音楽シーンや若者に対して、紛れもなく絶大な影響を与えていた。リバイバルの動きにおけるもう一人の重要人物である、Paramoreのヘイリー・ウィリアムスは自身のポッドキャスト番組において次のように語っている。

「もし、アヴリル・ラヴィーンがいなかったら、音楽レーベルがParamoreにチャンスを与えることはなかったと思う。アヴリルは、いわゆるバブルガムポップではない音楽に興味のある若い女性に対して、確かに道を開いてくれたんだ」(※1)

 その言葉を証明するように、ホールジーやビリー・アイリッシュ、オリヴィア・ロドリゴといったポップアーティストから、サッカー・マミーやスネイル・メイルといったインディロックシーンを中心に活躍するアーティストまで、現代の音楽シーンで活躍する多くの女性アーティストがアヴリルの大ファンであることを公言している。その中でも最も有名なのは、やはりテイラー・スウィフトだろう。そのファンぶりは、アヴリルの最新アルバム『Love Sux』がリリースされた際に、手紙と共に花束を贈るほど(※2)であり、2015年には自身のツアーにゲストとして招き、二人で「Complicated」(2002年)をデュエットしているほどだ。

 だが、このような再評価が進む一方で、アヴリル自身はキャリア史上最も苦しい日々を過ごしていた。2014年末ごろからライム病の症状に悩まされるようになった彼女は、症状の悪化によって音楽活動の休止を余儀なくされていたのである。約2年ほどベッドに寝たきりになることもあったという壮絶な闘病生活を経て、復活を遂げたのは約5年後の2019年。当時の心境を反映し、最もヘヴィで力強いアルバムとなった『Head Above Water』のリリースを経て、日本公演を含むワールドツアーを予定するも、今度はパンデミックの影響によってツアーの中断を余儀なくされる。大の日本好きを公言しているアヴリルの来日公演が約8年ぶりとなった背景には、このような事情があったのである。

 今回のワールドツアーのきっかけでもある最新作『Love Sux』の作風が2000年代当時を彷彿とさせるポップパンク一色となっているのは、単にリバイバルの流れに乗ったというよりは、このような苦難の日々に対する反動が大きかったということなのだろう。結果として今作の方向性は、(再評価の流れも相まって)「2000年代を代表し、今なお愛される偉大なポップアイコン」としてのアヴリル・ラヴィーンの存在感をさらに強調し、より理想的な状態での完全復活を印象づけたのだ。

 開演時間を迎え、ステージ上のスクリーンに、これまでアヴリルが歩んできた様々な時代の写真や映像をパンキッシュにまとめたクールなオープニング映像が投影される。バックに流れているのは、女性ロックミュージシャンの象徴であるジョーン・ジェット「Bad Reputation」の自身によるカバーバージョンだ。“私は自分の評判なんか気にしない/アンタは過去に生きてるんだ、新しい時代の到来さ/女の子だって自分のやりたいことを好きにできるんだ/それこそが私がやることさ”という歌詞は、まさに彼女が築いてきたキャリアを象徴するフレーズである。

 映像を終え、1曲目を飾る「Bite Me」(2021年)と共にステージに登場したアヴリルは、オレンジと黒のボーダー柄のニットに、たくさんのチェーンがついた黒のミニスカート、網タイツに厚底のロックテイストなブーツという、可愛さと格好良さを両立させた見事なパンクファッションの出で立ちだ。最新型にアップデートされた力強いポップパンクのエネルギーと、アヴリル自身の圧倒的な存在感、「会いたかったよ!」という嬉しい言葉と共に、会場の熱狂は一気にピークへと到達する。

 その後も、延期によるフラストレーションを一気に晴らすかのように、アヴリルは「What The Hell」(2011年)、「Complicated」と代表曲を惜しげもなく連発していく。改めて振り返ってみると、この冒頭3曲には自身が歩んできた20年のキャリアを、まずは一気に提示してしまおうという意図があったのかもしれない。それぞれ10年というギャップがあるにも関わらずその流れにまったく違和感がなく、等しく熱狂を生み出していた光景は、アヴリルが第一線で走り続けてきたという事実を改めて証明していた。

 一旦の休憩を挟み、アヴリル自らギターを抱えて披露された「My Happy Ending」(2004年)で幕を開けた次のセクションでは、「I’m A Mess」(2022年)、「Losing Grip」(2002年)、「Flames」(2021年)と、失恋の悲しみや孤独を描いた楽曲が続き、アヴリルの持つダークな側面が丁寧に描かれていく。デビュー当時から一切衰えることのない美しくキレのある歌声と、ヘヴィでソリッドなバンド演奏が織り成す、アヴリルらしいコントラストにすっかり魅了される。特に、地鳴りのような轟音の中で見事なロングトーンを響かせた「Losing Grip」の壮絶なパフォーマンスは、間違いなくこの日のハイライトと言って良いだろう。

 興味深いのは、それぞれの楽曲のリリース年からも分かる通り、明確に新旧の名曲を交互に披露しているという点だ。そこには、過去の楽曲を単に「お馴染みの名曲」として回顧の対象とするのではなく、あくまで今も変わることのないリアルな感情として提示したいという意図があったのかもしれない。“大切な思い出も、全部消え去ってしまった/ずっと嘘をついていたんだね/私のハッピーエンドにお似合いだよ”(「My Happy Ending」)に続けて“またいつか会えるかな?/最後の瞬間には二人でいられたら良いのに/自分でも分かっているよ、混乱しているって”(「I’m A Mess」)と歌われることで、楽曲で描かれる想いが、一人の人間が抱く地続きの感情として立体的に浮かび上がっていく。

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