『窓辺にて』の稲垣吾郎になぜ惹かれるのか 3つのポイントに映し出された役との共通点

何かを手放しても、豊かな人生が歩める希望

 本作で、市川は最終的に大切なものを「手放す」ことを選択する。だが、この作品では「手放す」ことが単に失うという意味ではなく、別のものを「手に入れる」というイメージとして描かれる。もともとあったものがなくなるという意味では、手放すことは一見ネガティブに捉えられがちだが、その空白にはまた別に新しいものが入ってくるものだ。そして、その繰り返しが先の読めない人生の楽しみ方なのだ、と言わんばかりに。

 若さを手放して経験則を手に入れる。キャリアを手放して新しい挑戦を手に入れる。稲垣の場合は、普通の生活を手放してトップアイドルとしての人生を手に入れたとも言えるかもしれない。花に囲まれ、良き親しい友人に恵まれた優雅な暮らしぶり。今でこそ多様性を認め合う空気が流れているが、かつて稲垣のライフスタイルには驚きの声が上がったこともあった。他人の目に映るわかりやすい何かを手放したとしても豊かな人生を歩むことはできる。それは稲垣の選択からも感じられる。

 きっと市川は留亜のもとへと向かったと思われる優二を送り出し、そのあと1人で少しぎこちなくパフェを食べるのだろう。自分のペースで食べるパフェは、2人では味わえないものでもある。その姿に、ふいに稲垣がディレクションしたレストラン『BISTRO J_O』に“おひとり様専用席”があるのを思い出した。誰かと離れて1人でいる時間も、実は贅沢なこと。それを思い切り味わうことは、ひとつの幸せだと稲垣は知っているのだ。

 多くの人にはわかりにくく感じられる愛の形も、誰かを通じて知ることができる新しい自分も、そしてみんなが手にする“普通”とは違う選択をした自分も……全部間違っていないし、そのままのあなたで大丈夫だ、と。そんな窓辺の暖かな日差しのように微笑みかけられたような気持ちになったのは、“稲垣吾郎の生き様”が透けて見える市川が、自分の決断に満足そうなエンディングを見せてくれたから。その静かな笑顔に、また稲垣吾郎が愛しくなった。

※1:https://realsound.jp/2022/11/post-1174495.html
※2:https://cinema.ne.jp/article/detail/50453?page=1

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