米津玄師が届けた心の動きと結びついた歌 “人間に戻る旅”になった2年半ぶり『変身』ツアーを観て

米津玄師、2年半ぶり『変身』ツアーレポ

 ところで、MCで中島から「どんなツアーだった?」と聞かれた米津は、「人間に戻る旅だったなって感じがする」と答えていた。それは、コロナ禍で外出を控えるべき時期が続き、曲を作ったり映画を観たり、ずっとPCの前に座ったままだったから体がバキバキになり、非人間的な形のまま固まっている気がする――という話の流れで冗談のような感じで出てきた言葉だったが、実は核心的な発言だったように思う。

 ここでライブのオープニング&エンディング演出を振り返りたい。オープニング映像では外車を運転するモンスターが駐車場に車を停め、じょうろを持って車を降り、上りエレベーターに乗るところまでが映された。その後LEDスクリーンの中でエレベーターの扉が開き、「1階でございます」という音声とともにじょうろを持った米津が登場。そして「POP SONG」からライブが始まった。エンディングはその逆で、光の中に米津が消え、エレベーターが下がっていったあと、映像内でモンスターがエレベーターを降り、駐車しておいた車に乗り、そのまま車を夜の街へと走らせた。「人生は時にクソだけども、今日がそうじゃなければいい。それが叶う一日であってくれたらと思います」と米津。社会と折り合いをつけるには、時にやっていけなくなるようなことも多々ある。だからこそ、ライブではそうでなくてもいいのだと語りかける。今夜、この夢の中ではあなたが安らかに眠れたらいいのにと願う。このツアーにはそんな想いが込められていたのではないだろうか。

米津玄師
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 本編ラストがまた痛快だった。まず、「爱丽丝」で常田大希がサプライズ登場。これだけでもすごいことだが、トリプルギターで歪ませ放題の編成になったあと、「(常田が)出てきたとなれば、あとはみんな分かると思うけど」とそのまま「KICK BACK」になだれ込んだのだ。大人数のダンサーとともにステージ上で激しく頭を振り、マイクに向かって激しくシャウトする米津。拡声器を通した声でのコーラスやギターで応戦する常田。LEDに映るのは米津の手にあるハンディカメラからの映像で、米津や常田やバンドメンバーの姿が大映しに。狂騒の中で歌われるのは、欲、それだけ。ストリングスとともに開ける美しいDメロですら〈幸せになりたい 楽して生きていたい/この手に掴みたい  あなたのその胸の中〉である。全部を明日へ放り投げてダンス、ダンス、ダンス。刹那的快楽というよりかは、明日からの日々を永く生きるための営みだ。人が人らしく、あなたがあなたらしく生きていくことを、時にわがままな“私”になることをこの音楽は肯定してくれている。

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