RADWIMPSがゲームチェンジャー? 優里、菅田将暉……令和のラブソングの特徴を歌詞から分析

客観的で多角的な世代の価値観

――最近「この人はすごい歌詞を書くな」と思った方はいますか?

高木:藤井風さんの「特にない」はタイトルからしてすごいですよね。「特にない」というタイトルなら絶対に何かあるわけですよ(笑)。〈特にない〉という歌詞から始まって、最後のフレーズの終わりに、あー、うーという感じのフェイクが入るんですが、それがまるで、「特にない」と言いながらも実は何かを隠していてそれが言葉にならない、という感じに伝わってくるんです。

 菅田将暉さんが2019年にリリースした「キスだけで feat. あいみょん」の歌詞も衝撃的でした。〈私今日は女だから〉という最初のフレーズを菅田さんが歌っていますよね。歌詞で描かれる男性目線と女性目線が実際に歌っている人物とテレコになっているから、新しい画面が展開されているように感じます。今までは、石川さゆりさんの「天城越え」のように相手へ思いをぶつける感じだったと思うんですが、今の時代はぶつけずに赤裸々な世界観を広げることによって、相手に伝えている気がします。一歩引くことによって、相手に自分の感情を見せやすくしているというか。

菅田将暉 『キスだけで feat. あいみょん』

――今の若者は少し冷静な世代ということが関係しているんでしょうか。

高木:冷静さももちろんあると思うんですけど、客観的で多角的な感じがするんですね。恋愛においては、お互いの認識が違うからこそ、自分はこう思っている、相手がこう思っていると話し合いながら確かめていくべきじゃないかと思いますが、そういう部分が歌詞の中にも少しずつ落とし込まれている気がします。

――最近はTikTokからのヒットもすごく増えていますよね。

高木:TikTokは、最初の5秒で掴めなければスワイプされちゃうので、CMソングに近いんですよね。だからインパクトのあるフレーズや声じゃないといけない。たとえばasmiさんの「PAKU」は〈パクっとしたいわ〉というフレーズで有名ですが、「え? なに?」と思わせるキャッチーさがありますよね。あとは口にしたときのメロディと単語の親和性も高いです。これは僕が作詞をするときも意識していることですが、たとえば、“小説”という言葉でも、“タータタ”という若干のメロディがあるんですよ。〈パクっとしたいわ〉も、普通に「パクっとしたいわ」と喋ったときの感じとメロディが非常に似ています。TikTokでヒットするためには、そういった工夫も必要かなと思います。

PAKU - asmi (Official Music Video)

 でも最近はヒット曲の定義が曖昧になっていますよね。昔はCDが100万枚売れたら、みたいなわかりやすい指標があったけど、今はYOASOBIの「夜に駆ける」やKep1erの「WA DA DA」のように、CDとしてリリースされていないうちからみんなが知っている曲もあるじゃないですか。TikTokとかSNSでバズって認知度が高まった曲もありますが、全員がSNSをやっているかというと違ってくるし、アニメ好きなら知らない人がいないアニメソングも、アニメに興味がなかったら全然わからなかったりする。世代や趣味によって、人気の曲が細分化している感じがあります。

――今後はラブソングの歌詞にどんなものが出てきそうだと思いますか?

高木:小説に曲をつけたYOASOBIさんの「夜に駆ける」のように、何かにインスパイアされた楽曲は今までもたくさんあると思いますが、今後はSNS上に誰かが投稿した動画や写真にインスパイアされて曲が生まれることも増えてくると思います。また、海外アーティストとコラボしたりすることも増えてくるのではないでしょうか。自分もコロナ禍ではスイスのインフルエンサーと、米津玄師さんの「感電」のカバー動画をオンラインで一緒に作りました。今はSNSを通して世界中の人と繋がれるので、僕自身、そういう面でも新しいものを作っていけたらと思います。ラブソングも、相手に対する単純な“好き”だけじゃなくて、相手を尊重する何かがテーマになっても良いと思いますね。たとえば海外の人とコラボするなら相手の文化を尊重するとか、違いを尊敬するとかでも良いのかなと。ラブソングがより幅広いものになるといいなと思います。

■高木洋一郎
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