Toshl「歌がさらに愛しくなった」 楽曲カバーから得られる刺激

Toshl、歌うことで得られる刺激

 ToshIが9月28日、カバーアルバム第3弾『IM A SINGER VOL.3』をリリースする。

 2018年にはじまったカバーシリーズの新作がリリースされるのは約3年ぶり。本作には、『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)で披露した「美女と野獣」「イントゥ・ジ・アンノウン〜心のままに」、さらにSuperfly「タマシイレボリューション」、高橋真梨子「桃色吐息」、中森明菜「難破船」、安室奈美恵「Hero」、絢香「三日月」といった女性アーティストのカバーバージョンが収められている。「スピーチレス〜心の声」はチェロ奏者・宮田大、「美女と野獣」は『題名のない音楽会』の司会を務める石丸幹二、「You Raise Me Up」(Celtic Woman)にはゴスペルクワイアが参加。ジャンルを超えたコラボレーションも本作の魅力だろう。

 コロナ禍以降も精力的に音楽活動を継続しているToshI。『IM A SINGER VOL.3』の制作プロセスを中心に、歌への思い、シンガーとしての矜持について語ってもらった。(森朋之)

いろいろな思いを経験するなかで、歌がさらに愛しくなった

——2020年から始まったコロナ禍の後も、ToshIさんは地上波の音楽番組や様々なメディアを通し、歌を届け続けてきました。この2年半はToshIさんにとって、どんな期間でしたか?

ToshI:最初の頃は「どうしたものか」という状態でしたね。全世界がそうだと思いますが、様々な情報や圧に飲み込まれてしまいそうな感じもありました。でも、しばらくすると「この状況をチャンスだと捉えて、今しかできないこと、今だからできることをやろう」と発想を切り替えて。(音楽活動が)何もできない時期は絵画の製作に没頭して、2020年9月に金沢の21世紀美術館で絵画展を開催したんです。(『龍玄としEXHIBITION  運命  音の世界を、描く』)ここから始まるプロジェクトを「自分の運命を切り開く」という気合を込めて「プロジェクト運命」と名づけ、これまでの2年間で第11弾まで開催してきました。ライブに関しても、「人が集まれないのであれば、観客一人だけのコンサートはどうだろう、もし自分の好きなシンガーが自分一人のためだけに歌ってくれたらこんな嬉しいことはない、こんな状況の今だからこそ明るく夢のあることを」と思って、本当に一人だけのため歌うコンサートを開催しました(2020年9月に東京オペラシティで行われた龍玄とし名義のコンサート『たった一人だけのコンサート「運命」龍玄とし』)。

——まさに、あの時期にしかできなかったコンサートですね。歌うことに対する意識も変化したのでは?

ToshI:「もしかしたら歌うことができなくなくなるかもしれない」という、言い知れぬ不安に陥った経験は初めてだったし、いろいろなことを考えましたからね。「歌えることが当たり前」と思っていたわけではないですが、「本当にどうなるかわからない」というリアルを突きつけられたといいますか。いろいろな思いを経験するなかで、歌がさらに愛しくなったし、自分の歌を聴いてくださるファン方々への思いが重なって、「歌いたい」という衝動も強くなりました。砂時計のように、刻一刻と時は無情に過ぎ去っていく。だからこそ、やれることをやるべきだなと。“匍匐前進”を肝に銘じて、這いつくばってでも前に進もうという気持ちに切り替え、実践をしていきました。とはいえ、プロジェクト運命スタート時は、気持ちとは裏腹に、病院に行っても原因不明の体調不調をきたしていましたね。異常なストレスがかかっていたのかも知れません。

自分にとって好きな曲の最高峰は「美女と野獣」

——カバーシリーズ第3弾『IM A SINGER VOL.3』からも、ToshIさんの歌に対する強い思いが伝わってきました。3年ぶりの新作ですが、今回は女性アーティストの楽曲で構成されていますね。

ToshI:はい。まず「『IM A SINGER』の新作を制作しましょう」という話はここ数年も何度か出ていたんです。コロナの影響もあって延期を繰り返していたんですが、1年くらい前にようやく動き出して。「何を歌いたい?」と自分に問うたとき、最初に浮かんだのが“ディズニー”だったんです。ディズニーが大好きでテレビの歌番組でも何度か歌わせていただいたことがあるし、ディズニーの楽曲は世界各国できっと“国民的”な楽曲、もちろん日本国内でも年代を超えて親しみ深い楽曲だと思ったし、ディズニーの曲を自分の声でアルバムに納められるなんて、夢のようなお話なので、ダメもとでレーベルのスタッフに「ディズニーの楽曲をカバーすることはできますか?」と打診したところ、ディズニー様サイドからご承諾を頂いたとお返事があり、幸先の良い歓喜のスタートでした。

——制作としては、ディズニーの楽曲を選ぶところからですか?

ToshI:そうですね。結果的に3曲選ばせてもらったんですが(「イントゥ・ジ・アンノウン〜心のままに」「美女と野獣」「スピーチレス〜心の声」)、すべて女性シンガーの楽曲だったんです。カバーしたい楽曲は膨大にあるんですが、ディズニーの3曲に合わせて、女性アーティストの曲だけで構成するのはどうだろう、と。そこからさらにリストを絞って、収録曲を決めていきました。“ToshI 3択”(『ミュージックステーション』内で行われている、3つの候補曲の中から視聴者生投票で選ばれた1曲を歌う企画)でも女性アーティストの楽曲がテーマになることが多いし、僕が歌う女性アーティストの楽曲を聴きたいと思ってくださる方も多くいらっしゃるのかも知れないなと。

——ToshIさん自身の意向と、リスナーのニーズが合致しているのが“女性アーティストの楽曲”だったと。ToshIさんご自身も、ディズニーの楽曲に思い入れがあるのでしょうか?

ToshI:はい。好きな楽曲はたくさんあるのですが、自分にとっての最高峰は「美女と野獣」なんです。20代前半に、音楽制作のためにロサンゼルスに渡って生活を始めたのですが、様々な問題や困難に思い悩む日々を送っていたときに、たまたま『美女と野獣』のミュージカルを観る機会があり、すごく感銘を受けたんです。その後も何度も観て、そのたびに感動して涙を流しました。サントラ盤も聴いて、「まずはこの英語を聴き取れるようになろう」と勉強をはじめたり、少しずつ前向きになれたんですよね。ヒロインのベルにも惹かれて、「こんなふうに強く、まっすぐに生きたい」と思って。今回のカバーアルバムの制作でも、最初に「美女と野獣」を選びました。

——しかも今回のカバーには、石丸幹二さんが参加。すごいコラボレーションですね。

ToshI:そうなんですよ。前作の“VOL.2”で「メモリー」(ミュージカル『キャッツ』より)をカバーさせていただいて。2019年12月にNHK『うたコン』で石丸さんと一緒に歌唱する機会をいただいたんですが、本番直前に舞台袖で「(石丸が司会をつとめる)『題名のない音楽会』に呼んでいただけませんか?」と営業したんです(笑)。同郷で同年代、同じシンガー同士ということもあり、すごくご縁を感じたんですよね。『題名のない音楽会』にもすぐに呼んでくださり、その後『ミュージックステーション』(いずれもテレビ朝日系)でも共演したり、ラジオのゲストに呼んでいただいたり、いろいろな場所でご一緒させていただき、今ではすっかり、幹二君、としくんと呼び合う仲です(笑)。石丸さんはダンディーで素敵なお人柄、超一流のミュージカル俳優ですし、実際に“野獣”を演じた方でもあるので、今回「美女と野獣」をカバーさせてもらえることになったときも「ビースト役は石丸さんしかない」とオファーさせていだきました。僕は憧れのベル役なので、黄色いドレスを着て王子様にエスコートされるちょっとフェミニンな役に徹して、お姫様抱っこされる妄想に浸りながら、気持ちよく歌わせていただきました(笑)。

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