WurtS、SFを通して現代社会に投げかけるメッセージ 巧みに張り巡らされた伏線から新曲「コズミック」を紐解く
「研究者×音楽家」として、2021年に本格的に活動を開始したソロアーティスト、WurtS。
その魅力は、一度聴くと耳から離れなくなるメロディ、心地よい脱力感のある歌声、ダンスミュージックを軸にした洒脱な曲調だけでなく、映像やデザインを含めてさまざまな仕掛けを張り巡らせる、たくらみに満ちたセルフプロデュースの表現手段にある。
活動開始当初から、その独特なスタンスと戦略を持った彼の活動は際立っていた。2021年1月、TikTokにオリジナル曲「分かってないよ」のサビのみの動画を投稿すると、その時点で全く正体不明の新人ながら投稿から約1カ月で100万回再生を超える反響を呼ぶ。同年5月にそのフル尺を配信リリースし、同時に縦画角を2画面に分割して男女のすれ違いを描いたセルフプロデュースのミュージックビデオを公開して話題を広げヒットにつなげた。
今の時代において、楽曲がTikTokで“バズる”ことはニューカマーがブレイクするための最もよく知られた近道だ。ただ、現役大学生でもある彼がユニークだったのは、単にバイラルヒットを目的にするのではなく、その過程自体を「現代カルチャーとマーケティングの観点から社会と音楽を分析する」仮説検証の手段として捉え、それを実践してきたこと。
そして、もうひとつのユニークなポイントは、CMタイアップや企業とのコラボに旺盛に取り組みつつ、発表した一つひとつの楽曲の点と点を結び合わせることで、自らの世界観や作品の背後にあるストーリーが浮かび上がってくるようなタイプの音楽活動を行っていることだ。
2021年12月1日、WurtSは1stアルバム『ワンス・アポン・ア・リバイバル』をリリース。同月には初のオンラインライブ、2022年4月には初の有観客ライブ、6月にはPEOPLE 1との東名阪対バンツアーを開催した。
そして8月17日に新曲「コズミック」を配信リリース。スマートフォン「Nothing Phone (1)」とのコラボレーション企画のために書き下ろされた一曲だ。WurtSのオリジナルレーベル<W’s Project>にユニバーサルミュージックの<EMI Records>が参画した「W’s Project×EMI」からリリースされている。
同日に公開されたMVの内容、WurtSのコメント、そして各種背景から、かなり面白いことになっているそのプロジェクトの概要を推察したい。
MVでは、2052年の未来で目を覚ましたWurtSが織りなす物語が描かれる。
YouTubeの公式コメント欄には、Episode 2「HARE2001」というタイトルと、「2052年、WurtSは宇宙船の中で目が覚める。宇宙船を管理する人工知能“HARE2001”と壊れたマシーン、そして謎の少女ピクシー。船内を探るWurtSは巨大な陰謀を知ることになる…」というあらすじが書かれている。
つまり、このMVは「Nothing Phone (1)」とのコラボレーションでありつつ、SF的な世界観を持つストーリーをもとにしたシリーズ企画の第2弾という体裁となっているわけだ。
では第1弾は何かというと、今年3月18日にリリースされた「Talking Box (Dirty Pop Remix)」のMV。こちらは、トヨタ自動車のスポンサードのもとクルマをモチーフとしたMVを制作する「feat.CARS」プロジェクトの一環として制作されている。
こちらにはEpisode1「仮想現実」というタイトルと、「時は2022年。シーン・ボーマン務める音楽番組の撮影を終えたWurtSはダイナーで“ブルーベリーハニー”を注文する。そこに一本の電話…『目の前の女とウエストサイドモーテル1855へ向かえ。』二人は車を走らせ、モーテルに向かうが…」というあらすじが。
このあらすじにある「シーン・ボーマン務める音楽番組の撮影」が何かというと、昨年12月に開催された初のオンラインライブ『WurtS ONLINE LIVE 2021 supported by ZONe』のこと。というのも、同ライブは単なる無観客ライブの配信ではなく、レトロ・アメリカンな音楽番組を模した一幕から始まる、ひとつの映像作品として仕上がっていたのである。