小室哲哉、復帰後初のソロ作『JAZZY TOKEN』で奏でる極上サウンド アナログ、配信、NFT……ハイブリッドな音楽の届け方

小室哲哉、復帰後初のソロ作で奏でる極上サウンド

 昨年、TM NETWORKの6年ぶり再起動と共に自身の音楽活動を再開した小室哲哉が、ソロとしては『TETSUYA KOMURO JOBS #1』以来、約5年ぶりとなるアルバム『JAZZY TOKEN』を配信リリースした。驚きなのはそれがコンテンポラリージャズと呼べる、インストゥルメンタルのクロスオーバー作品であったことだ。いつもならシンセサイザーに囲まれ、それを魔術師のように操る小室だが、ここでは一台のピアノまたはMoog One(シンセサイザー)と真摯に向き合いながら、ウッドベースやドラム、サックスなどの生楽器と共に、極上のラグジュアリーサウンドを奏でている。

 高校1年の時、知り合いに薦められてキース・ジャレットのアルバム『Facing You』を聴き、圧倒的なテクニックに衝撃を受けた小室は、その後ジョー・サンプル、チック・コリア、ボブ・ジェームス、ジョージ・デューク、ハワイのフュージョンバンド、Seawindなどを聴いていた。『JAZZY TOKEN』のブックレットの中では「あの時代に置いてきたままの忘れ物みたいな感覚もある」と語る。今作ではコード理論や演奏テクニックを改めて解釈し、そこに小室らしいキャッチーなメロディを加えて表現。このアルバムを聴き、希代のメロディメーカーである小室に対する認識に、素晴らしい技術を持ったピアニストであるという印象が新たに加わる人も多いことだろう。

 テーマは世界旅行で、小室がこれまでに訪れてまた行きたいと思う土地や、思い出深い景色を音楽にしたという。このアルバムはさながら、小室が観た景色と思い出がコラージュされた、音の絵ハガキといったところだろう。

 小室は以前ロサンゼルスに拠点を置いて活動しており、そのLAの情景をイメージした楽曲がいくつか収録された。短いパッセージの繰り返しがチック・コリアを彷彿とさせるオープニングナンバー「Traffic Jam」は、LAを走るフリーウェイ405号線をイメージしたとのこと。よく渋滞する道とのことで、それもまた小室にとっていい思い出の一つのようだ。また、湾岸沿いのハイウェイの景色を曲にしたという「P.C.H」は、サックスが奏でる爽やかなメロディがデイヴィッド・サンボーンのようで、1980年代のAORを彷彿とさせる。

 クラブミュージックの聖地イビサ島をイメージした「IBIZA Morning」は、軽快なタッチのピアノが、深夜のクラブでの大騒ぎから一転、ゆったりと熱気を覚ますような心地良いチルアウト感が溢れた。また、フランスのセーヌ川左岸を意味する「RIVE GAUCHE」では、ジャコ・パストリアスのようなベースがうなりを上げ、グルーヴィーなサウンドを聴かせる。

 コロナ禍に制作されたからこその楽曲も収録。「You are not alone」は、夜に部屋で一人グラスをくゆらすようなシーンにぴったり。ピアノ、ウッドベース、ドラムのトリオ編成による曲で、包み込むようなサウンドからも曲名の意味が様々に広がる。「Choose the positive」は、ラテンのリズムが心地良いボサノヴァ調。明るいメロディが、心の曇りを晴らしてくれるようなイメージが広がる。

 そしてラストに収録された「YOKOGAO」は、とある景色を眺めている女性の横顔をイメージしたそう。ゆったりとしたリズムに乗せて、美しいメロディが奏でられる楽曲。次に小室がプロデュースする女性シンガーはどんな女性なのか、その歌声を想像しながら聴いてみてもいいだろう。

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