みんなが聴いた平成ヒット曲 第1回:H Jungle with t「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント」

 音楽が主にテレビが持つメディアパワーと密接に結びつき、お茶の間を経由して世間の“共通言語”となった時代、平成。CD登場のタイミングと相まって、音楽シーンは史上最高とも言える活況を迎えた。当時生み出された楽曲たちは、今なお多くの人々の心や記憶に刻まれ、特別な思いを持つ人も少なくない。また、時代を経てSNSや動画という新たなメディアパワーと結びつき現在進行形のヒット曲として甦る機会も増えている。

 そこで、リアルサウンドではライター田辺ユウキ氏による連載『みんなが聴いた平成ヒット曲』をスタート。平成元年(1989年)〜30年(2018年)のヒットチャートに登場した楽曲の中からランダムに1曲をピックアップし、楽曲ヒットの背景を当時の出来事もまじえながら論じていく。

 第1回となる今回は1995年(平成7年)5月のヒットチャートに注目する。同年3月発表の「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」で一斉を風靡した浜田雅功(ダウンタウン)と小室哲哉による音楽ユニット・H Jungle with t。彼らが自身唯一のアルバム『WOW WAR TONIGHT REMIXED』をリリースした月である(発売は5月24日)。収録曲が“リミックス6曲のみ”という攻めた本作は、当時「マキシシングル」扱いとされ、オリコンシングルチャートでは6位を記録。中島みゆき『旅人のうた』(1位)、Mr.Children『【es】〜Theme of es〜』(2位)、L-R『KNOCKIN’ ON YOUR DOOR』(3位)、サザンオールスターズ『マンピーのG★SPOT』(4位)、岡本真夜『TOMORROW』(5位)に続くチャートインと聞けば、「WOW WAR TONIGHT」という楽曲に対する当時の熱狂ぶりが鮮明に思い出されるのではないだろうか(※1)。

 1995年は平成史においてもっとも混乱を極めた年の一つ。そのような時代にこそ求められた楽曲「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」について解説する。(編集部)

H Jungle with t「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント」

「ここんとこ、ボクは『すんません』ばっかり連発してる。そら、そうやろ。バイトで歌、歌(うと)うて、そのCDが何百万枚も売れてもうたなんてもうホンマ『すんません』言うしかあらへん。音楽を一生懸命やってる人に対して、申し訳ないやんか」

 ダウンタウンの浜田雅功は自著『読め!』(1995年/光文社)のなかで、小室哲哉と組んだ音楽ユニット・H Jungle with t のCDがヒットしたことについてこのように記述している。たしかに当時、彼は番組の共演者から音楽活動の件に触れられると、よく「すんません」と答えていた。

「ダウンタウンの名前に恥じないものを」

 1994年12月、小室は自身がプロデュースするtrfとともに、ダウンタウンがMCをつとめる音楽番組『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(フジテレビ系)へ出演した。そこで浜田から「小室さんが曲を出したら売れるんやから、僕にも曲を作ってくださいよ。ミリオンセラー、よろしくお願いします」と頭を下げられたのだ。「頼まれたら断れない」と苦笑いする小室。視聴者としてその様子を観ていたときの感覚は、小室なりのリップサービスにも見え、またお笑い芸人である浜田らしい軽いノリのようにも映った。ところが収録後、あらためて番組スタッフが楽曲制作を打診したところ、小室は「やりましょうか」と返事し、その場でレコーディング日を指定したのだという。

 雑誌『Quick Japan Vol.104』(2012年/太田出版)で小室は、引き受けてから1週間もかからずに曲が完成したことを明かしている。「ダウンタウンの名前に恥じないものを……って考えた時、どんな時代でも、誰の心境にも寄り添うような一曲にしようと。人の心に入り込んで初めて、曲は曲になる。浜ちゃんの忙しい日常を歌ったものだけど、それは生きている誰もが感じる部分だったりするから。『何かを起こしたい』っていう気持ちは、今の時代も同じようにある」と曲に込めたメッセージを話した。

 1995年3月15日、H Jungle with tの1stシングル『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント』はリリースされた。オリコンチャート7週連続1位を獲得し、累計213.5万枚のセールスを記録。さらにその勢いに乗って、同年5月24日にはリミックス曲を収録したユニット唯一のアルバム『WOW WAR TONIGHT REMIXED』も発表(当時はマキシシングル扱い)。このアルバムにはラガ、アシッドダブなど多彩なリミックスが入っており、名盤中の名盤となっている。

多忙な人たちの背中を押す、曲後半のメッセージ

〈たまにはこうして肩を並べて飲んで ほんの少しだけ 立ち止まってみたいよ〉
〈温泉でも行こうなんて いつも話してる 落ち着いたら仲間で行こうなんて でも 全然暇にならずに時代が追いかけてくる〉

 これは「WOW WAR TONIGHT」の序盤の歌詞である。浜田はゆったりしたテンポにあわせて、いつもとは違って柔らかいテンションで、まるで職場の同僚や友人と喋っているかのように歌っている。

 当時、バブル崩壊後で誰もが「不況」と嘆いていた。さらに1995年4月19日には一時79円75銭の超円高を記録。輸出産業に大きな影響を与え、日本社会のその後に影を落とした。日本人は最後の祭りを楽しむように海外旅行へ続々と飛び立った(ちなみに筆者もそのうちのひとりだ)。そして当時の学生たちは、大人から「高校、大学を出る頃には働き口がなくなっている」と危機感を煽られたのだった(実際にその後、超就職氷河期が到来)。

 平成不況で賃金があがらないのに、誰もがとにかく働いて、働いて……。「WOW WAR TONIGHT」はそんな社会のムードをとらえていた。楽曲の後半、感情のギアをあげて〈流れる景色を必ず毎晩みている 家に帰ったら ひたすら眠るだけだから ほんのひとときでも自分がどれだけやったか 窓に映ってる素顔を褒めろ〉と歌われる。多忙な人たちがこのメッセージにどれだけ背中を押されただろうか。同曲が大ヒットした理由が納得できる。浜田は『読め!』でこのように記している。

「『ああ、小室さん、ええ歌詞書いてくれてるわ』と思うた。(中略)『一生懸命、何かをやってる人間に対しても当てはまるんやないかな』ってね。だから、素直に自然に歌えたんかもしれんなぁ」



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