あらき、未来への願いを込めた『撃壌之歌』ツアー ロック魂の通うライブで届けたボカロ名曲の数々

『ARAKI LIVE ARK -撃壌之歌-』レポ

 平和で幸せな世の中を楽しめる時が来るように。そんな意味が込められた今回のツアー『ARAKI LIVE ARK -撃壌之歌-』。あらきは、6月10日の福岡・BEAT STATION公演を皮切りに5公演を巡り、6月25日のZepp DiverCity(TOKYO)公演でツアー最終日を迎えたわけだが、そのファイナル公演で繰り広げられた光景は、誰もがライブという場を無我夢中に楽しんでいた頃ーー今はなき『ETA(EXIT TUNES ACADEMY)』をはじめとした歌い手が一堂に会するイベントをも想起させるいつかの熱量のこもったライブと重なったものだった。

 それを肌で感じたのは、ヘドバンで客席が大きく波打ったアンコール1曲目の「いーあるふぁんくらぶ」。あらきが『ETA』 に出演していた頃、よく演奏してもらっていたというギターの江畑コーヘーと同曲を懐かしむやりとりもあった。この曲は「撃壌之歌 ver.」として披露されたのにも関わらず、当時の熱量を一瞬にして蘇らせる奇跡が起きたのは、今年で活動9周年を迎え、歌い手の黄金時代を築いてきたひとりであるあらきによる歌唱だったからだろう。

 ステージがあらきのイメージカラーである赤へと染まったとき、サポートメンバーの4人に続き軽妙な足取りで登場したあらき。「さあ! 祭りを始めましょう 東京!!」と高らかな声をあげたあらきは余裕な表情。1曲目の「祭りだヘイカモン」で中央のお立ち台の上に立つなど、派手にステージを彩り歌う。アンコール3曲を含めると全20曲を披露したこの日の公演のうち、オリジナル曲は2曲のみ。その他はほとんどがボカロ曲。加えて今回のツアーでは、あらきがこれまでに投稿したボカロ曲を対象にしたリクエスト投票企画がおこなわれ、上位3曲が各公演のセットリストに組み入れられることになっていた。ボカロ・歌い手カルチャーを愛するファンを喜ばせるスペシャルな内容だ。

 歌い手としての各曲に対する適応能力の高さを感じたのは洒脱なメロディラインをカラフルなライティングが彩った「フォニイ」、「セカイ再信仰特区」。「わたくし、今日はあんまりお行儀は良くしない方向で参りますので、かしこまらずに気合入れてよろしくお願いいたします!」と告げたあらき。芯が通った歌声に加え、精神もブレたところがひとつもなく、遊ぶときは遊び、まじめな時はまじめに。時には思いっきり気を抜くことの重要さを伝えるあらき。これぞ心にロック魂の通うライブだ。レーザーが飛び交う中で、〈傾奇けや Everybody〉とそれぞれが自由に音を楽しんだ「トキヲ・ファンカ」からギターを手に取った「Supernova」へ。最後のギターをかき鳴らす姿があらきの後ろの煌めく星の数々の映像などと同化しドラマチックなムードを演出する。

 あらきは歌い手シーンの中でもロック精神を歌に宿す歌い手だが、彼の場合、バラードのように歌声の形が鮮明になる曲こそ、ボーカルの真価を発揮する。それを実感したのが、アコギを弾き語り、サポートメンバーの音が澄み渡った「少女レイ」からのパート。客席の全員が椅子に腰を掛ける。奏でられた柔和なサウンドが引き立てる深みのあるボーカル。楽曲の蝉が鳴く季節を彷彿とさせる世界観をリアルと化した風景がそこにはただ延々と広がっている。続く斉藤和義「歌うたいのバラッド」のカバーで、伸びる声の余韻までも味のあるあらきの声に完全に包まれた空間。純真無垢なラブソング「きみがすき」も含め、あらきの声に自然と焦点が当たるバラードは、あらきの人のよさまでをも映し出し、親近感を覚えるほどだった。

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