藤澤ノリマサ、アコーディオン 桑山哲也ら迎えた浜離宮朝日ホールコンサート パワースポットに触れたような夜

藤澤ノリマサ、浜離宮朝日ホールレポ

 国内最高峰の音響を誇る室内楽専用ホール、浜離宮朝日ホールの開館30周年を記念したアニバーサリーシリーズに、6月23日、藤澤ノリマサが登場した。彼がこのステージに立つのは初めてで、バックを固めるのはピアノ・森丘ヒロキ、パーカッション・福長雅夫、 アコーディオン・桑山哲也というこの日限りのスペシャルバンド。『~浜離宮朝日ホール30thアニバーサリーシリーズ~藤澤ノリマサ プレミアムコンサート』の名にふさわしいプレミアムな夜が開幕した。

 万雷の拍手を浴びて登場したシンガー・藤澤ノリマサが、ゆったりとしたテンポに乗ってロマンチックなメロディを歌い出す。一瞬ののち、スローな演奏が一転、軽快なテンポでリズムが走り出す――。1曲目は「一輪の花束」。自然に湧き起こる手拍子の大きさは、今日を待ちわびた観客の期待感そのものだ。続く「何でもいいのさ~to tell you the truth~」は、誰もが知る「パッヘルベルのカノン」のメロディをなぞりながら、心晴れやかに大らかに。軽やかに動き回り、時に手を振り上げ、歌う喜びを全身で表現する藤澤と、あたたかく見つめる観客が作る一体感が、素敵な夜を想起させる。

「数あるアーティストの中から、このアニバーサリーシリーズに藤澤ノリマサを呼んでいただき、本当に嬉しく思います。今日は、一夜だけの素敵なバンドのみなさんと、特別なセットリストでお送りしたいと思います」

 久しぶりに歌うという「黒い貴婦人 -Homage to Shakespeare-」は、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲ホ短調」のもの悲しいメロディに、情熱的なラテンのリズムが融合したリズミックな1曲。恋に溺れる男性の狂おしい思いを華麗に歌い上げる表現力が圧巻だ。そして「伝えなくちゃ」は、内気な男性が照れながらも口にする「ありがとう」の言葉が胸に響く、心温まる1曲。曲ごとにドラマの主人公が変わり、歌詞がセリフのように耳に残る、それはまるで音楽によるショートムービー。

「来年はいよいよデビュー15周年を迎えます。小さい頃から両親の影響で、音楽一筋でやってきました。その中で色々な人と出会い、みなさんと出会えたこと、一期一会を大切に、今日まで全力で走り続けることができて、本当に良かったなと思います」

 引退するみたいな話し方ですけど、やめませんよ――。笑わせたりうなずかせたり、巧みなトークが冴えている。桑山哲也の父と、藤澤ノリマサの母は、かつて音楽家として師弟関係にあり、母は今回の共演を涙を流して喜んでくれたというエピソードには、こちらも思わずほろりとさせられた。楽曲は、14年前の鮮烈なデビュー曲「ダッタン人の踊り」へ。オリジナル版のモダンなダンスミュージック的アプローチを、温かみあるパーカッションとピアノ、哀愁のあるアコーディオンで再構築するアレンジが素晴らしい。ラストを飾る圧巻のハイトーン、ロングトーンもばっちり決まっていた。そして「One More Time」は、ピアノと共に自由奔放なフェイクを聴かせる前半から、バンドメンバーがテクニカルなソロパートをリレーする後半へ。スキャットのメロディにピアノが呼応する、コール&レスポンスも実にスリリング。ライブはちょうど中盤へ差し掛かり、一旦ステージを降りた藤澤の代わりに、バンドが優雅なワルツを奏でる。

 後半の始まりを告げる1曲は、「青春の旅立ち」という邦題で知られる、詩の朗読のように趣あるシャンソンのスローナンバー。そして誰もが知る名曲「Autumn Leaves」を、ジャズの香りをたっぷりと漂わせながらドラマチックに届ける。オペラの発声ともポップスの節回しとも異なる、気品と情熱に富む藤澤ノリマサ流のシャンソン歌唱。さらにケルティック・ウーマンの名曲「You raise me up」を、静かに語るピアノ、もの悲しいアコーディオン、波のように寄せて返すパーカッションの美しい響きに乗せて。あなたは私に力をくれる――胸いっぱいの絶唱と呼ぶにふさわしい、圧巻のパフォーマンス。

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