藤澤ノリマサ、アコーディオン 桑山哲也ら迎えた浜離宮朝日ホールコンサート パワースポットに触れたような夜
「小さい頃から、人と一緒に何かすることが苦手な子供でした」。そんな藤澤が、高校生の夏休みにショートステイで訪れたカナダで、同じ年の友達に「ノリちゃんには音楽があるじゃないか」と励まされたというエピソードを、中盤のMCで打ち明けた。「彼が今日、初めて僕のコンサートを見に来てくれています」と前置きして、松井五郎作詞の「帰り道」を、自らのピアノの弾き語りで万感の想いを込めて歌いあげる。続く、バッハ「主よ、人の望みの喜びよ」のメロディに乗せて、遠くへ旅立つ友の幸せを願うバラード「Prayer」も、友情と感謝の歌だ。藤澤のピアノ弾き語りはとても誠実で、一対一で歌われているような親密な味わいがある。
頼れるバンドメンバーをあらためて紹介すると、ライブはいよいよ終盤へ。「こういう時代だからこそ、楽しく明るくいきましょう」。4月に配信リリースされた新曲「Return To Life」は、手拍子のリズムに乗って、どこまでも伸びやかに晴れやかに、コロナ禍の時代の向こうに見えかけている、喜びに満ちた人生の希望を高らかに歌う曲だ。「アルビノーニのアダージョ」をモチーフにした「愛は今も」は、もの悲しくも激しいラテン調のリズムに乗せ、もう会えない人への変わらぬ愛を誓う歌詞が胸を打つ。まるで違う曲調だが、今を激しく生きるというテーマは、どこか通じあっているようにも聴こえる。
そんな、愛と感謝に満ちたコンサートの締めくくりにふさわしいのは、やはりこの2曲。共に松井五郎を作詞に迎えた「Song Is My Life」と「La Luce」は、藤澤ノリマサの歩んできた道をノンフィクションノベルのように描いた自伝的な曲だ。「Song Is My Life」では、マイクを使わずにホールいっぱいに素晴らしい生の歌声を響かせた。「La Luce」では、この日一番の気合の入ったロングトーンを見事に決める、凛々しい姿が見られた。よく知られたポップオペラの有名曲たちに比肩するほど、藤澤ノリマサのオリジナル曲は本当に素敵な曲揃いだ。
鳴りやまない拍手に応えて、アンコールは2曲。カンツォーネの代表曲「O Sole Mio」は、前半はマイクなしの朗々たる生声で、後半はバンドと共に明るいハバネラのリズムに乗って。そして本当に最後の1曲、自他共に認める藤澤ノリマサの代表曲「希望の歌~交響曲第九番~」は、総立ちの観客と共にこの日一番の一体感に包まれた。「心の中で歌ってください」と言ったように、観客の歌声はきっと彼の心にそのまま届いただろう。あなたが笑顔でいられるように、みんなが笑顔でいられるように。藤澤ノリマサの圧倒的な音楽のエネルギーを浴びて元気になる、パワースポットに触れたような素晴らしい夜だった。