マカロニえんぴつが生み出す“強力な曲”の数々 バンドのあらゆる可能性を詰め込んだEP『たましいの居場所』の聴き応え
2021年11月3日、マカロニえんぴつが「なんでもないよ、」をデジタルリリースした時、実は「今じゃないでしょ!」と思っていた。なので、ディスクレビューか何かに、その気持ちをそのまま書いたことを覚えている。
その時期のマカロニえんぴつは、地上波の音楽番組にあたりまえに呼ばれるようになるなど、まさに上昇気流に乗った頃だった。だからこそ、「なんでもないよ、」は、この勢いで行けるところまで行って、今の戦い方ではここまで、これ以上進むには何か特別な起爆剤が必要、という時に出すような、それくらい超強力なラブソングじゃない? と。ウルフルズが「ガッツだぜ!!」とアルバム『バンザイ』でブレイクした後に、ダメ押しでシングルカットした「バンザイ~好きでよかった~」に値するくらいのものを感じたのだ。
そんなふうに、「今出さずに取っておこうよ、こんな強い曲は」と思ったのだが、それは3割くらい当たっていて、7割くらい間違っていたことを、その後のマカロニえんぴつの状況を見ていて悟った。
当たっていた3割というのは、「こんな強い曲」と感じた部分である。事実、「なんでもないよ、」はリリースから7カ月経つ今も、再生回数を伸ばし続けるロングヒットになっている。たとえば、2022年6月17日現在も、Spotifyのマカロニえんぴつの「人気の曲」1位をキープし、再生数は4742万回を超えている。無論、ライブにおける重要なハイライトの瞬間にもなっている。力いっぱい王道なラブバラードで、ここまで支持を得た曲は、マカロニえんぴつとしては初かもしれない。
で、間違っていた7割というのは、「ラブバラード」という枠を外して「いい曲」として考えると、「強力な曲を次から次へと生み出してきたバンドである」という事実を、自分が忘れていたことだ。
2022年1月にリリースされたアルバム『ハッピーエンドへの期待は』に収められた曲の数々も、その後2022年4月にリリースされたデジタルシングル「星が泳ぐ」(テレビアニメ『サマータイムレンダ』1stオープニングテーマ)を聴いてもそれはあきらかだし、考えたらそれ以前から「ヤングアダルト」や「恋人ごっこ」などの強力な曲を、短いスパンで次々と放ってきたのが、マカロニえんぴつなのだ。
『PANIC ATTACK』『服部』『ケダモノの嵐』の時期のユニコーンの手法をルーツとする、1曲の中にとんでもない量のアイデアや技や情報を盛り込みまくるサウンドプロダクトも、マカロニえんぴつというバンドの魅力だ。しかし、それ以上に大きいのは、〈傷つかないための気付かないふりばかりだ〉(「ブルーベリー・ナイツ」)や、〈くすぶるのは ちゃんと燃えたからだ〉(「生きるをする」)などなど、あたりまえのように必殺の1行が頻出する歌詞の世界と、賑やかなバンドの音を、軽やかに、かつ自然に乗りこなしていくメロディの……「美しさ」とも「聴きやすさ」とも違う、何か。無理矢理言葉にするなら、「聴き手への近さ」とでも言おうか。
特に、その歌詞とメロディの精度が、一作ごとにさらにアップしていることを示しているのが、2022年6月22日リリースのNEW EPの表題曲「たましいの居場所」だと言える。なお、前述の「星が泳ぐ」も、本作には収録されている。
〈どんな未来の色だって 「さぁ!受け入れて生きなきゃダメ」 なんてそりゃないよなぁ、ヘイブラザー〉という、言わば「大きな呼びかけ」で始まり、〈たましいの居場所はレコードの中〉というキラーフレーズを経て、〈こんな未来でいま僕は汗かいて恥かいて託されて歌を描いてる!〉という超個人的な結末に行き着く歌詞。1回目、2回目、3回目と繰り返されるたびに、どんどん熱を帯びていく(という曲の構造にしてある)サビのメロディ。大会場のライブで披露される光景が、今から目に浮かぶ、スケールの大きな、かつ、それでも身近な曲に、「たましいの居場所」は、仕上がっている。