キャンティ、YMO、シティポップ……すべてはつなががっている 村井邦彦×川添象郎×吉田俊宏 鼎談【後篇】

村井邦彦×川添象郎×吉田俊宏 鼎談【後篇】

川添紫郎の時代から続く人脈

ダヴィッド社刊の『ちょっとピンぼけ』。キャパの親友だった川添浩史(紫郎)と井上清一(後にキャンティ相談役)が訳した。現在は文春文庫で手に入る

川添:親父は外国人に信用されるタイプの人間だったみたいね。ロバート・キャパ(報道写真家)ともえらく仲が良かったし。邦ちゃん、こうやって話していると、いろんなことを思い出すね。

村井:思い出すよね。あさってスティーブ・ガッド(フュージョンの世界的なドラマー)のバンドで「モンパルナス1934」のメインテーマ(村井邦彦&クリスチャン・ジャコブ作曲)のレコーディングをやるわけよ。

川添:うん、楽しみだね。

村井:スティーブ・ガッドには、さっきも話に出たアルファの時代、象ちゃんと一緒にやったニューヨーク・オールスターズのライブ(1978年)で初めて会ったんだよ。リチャード・ティー(ピアニスト)たちと一緒にキャンティで飯を食って、その後は六本木のミスティっていうジャズクラブに行ってさ。みんな音楽が好きだからスティーブ・ガッドとリチャード・ティーが朝の3時ぐらいまで延々と演奏しているわけ。そういう付き合いが45年ぐらい前から続いているんだよ。

吉田:それで「モンパルナス1934」のレコーディングにまでつながるわけですね。

村井:そうなんです。スティーブに頼んだら「喜んでやるよ」と快諾してくれました。キャンティは覚えているかと訊いたら「もちろん、覚えている」、象ちゃんのことも「もちろん」って言っていた。まあ、昔の仲間だよね。

川添:そうだね。

村井:そういう付き合いが続いているのも驚きだけど、もっと驚いたのはさ、川添紫郎さんが手がけた「アヅマカブキ」の花柳若菜さん(1933~2018、日本舞踊家、歌手ジェリー伊藤の妻、兄は作家の山口瞳)の娘のミッシェルが、スティーブ・ガッド・バンドのウォルト・ファウラー(トランぺッター)と結婚しているんだよ。

川添:ええっ、本当? びっくりだねえ。

村井:それで今回のレコーディングでは彼女にコーディネートをお願いして、スタジオの予約から何から何まですべてやってもらったの。

川添:いろんなつながりが役に立っているんだねえ。

村井:そうなんだよ。川添紫郎さんの時代からの人脈とつながりが、ずーっと、今にまで続いているわけね。そういうつながりが大事なんですよ。

川添:そういえば、かつてのアルファの音楽が今になって世界で再評価されているって話がさっき出たよね。やっぱり浮世離れしていたのかな。浮世離れした音楽を作っていたのが良かったのかもしれない。

吉田:浮世離れですか。

村井:はっはっは。

吉田:時代や大衆に媚びることはなかったといった意味でしょうかね。

村井:うん、そうだね。一切なかったね。

川添:そうそう、全く無視していたね。

村井:それはいまだに変わらないね、僕の場合。

青山テルマ「そばにいるね」

吉田:そういえば、象郎さんがプロデュースした青山テルマさんの「そばにいるね」(2008年、編曲とサウンドプロデュースは佐藤博)は大ヒットしましたね。

川添:バカ受けしましたね。日本で最もダウンロードされた曲ってことでギネスブックに載ったんです。

吉田:象郎さんが青山テルマさんを見つけてきたのですか。

川添:あのね、もともとSoulJa(ソルジャ)という青年ラッパーを成功させたいってことで、彼のスタッフに相談されたのが発端です。ちょっとした偶然が重なって佐藤博と組ませたの。

吉田:はい。

川添:しばらく佐藤君に任せて制作を進めていたんだけど、聴かせてもらったらシングルヒットしそうな曲がひとつもないんだよね。それで佐藤君とSoulJaという青年を呼んで「ラブソングを作らなくちゃダメだよ。これは僕の命令だから、必ずラブソングを1曲作って」と言ったの。それでできたのが「ここにいるよ」という曲だったわけ。

吉田:ヒットしましたね。

川添:うん。その曲はユニバーサルから出したんだけど、ユニバーサルの別のレーベルのヘッドが僕に連絡してきて「ここにいるよ」でゲストボーカルをやった青山テルマをソロデビューさせることになったので1曲作ってくれませんかっていうのよ。それで僕は「ここにいるよ」のアンサーソングとして「そばにいるね」という曲を作ればいいとアイデアを出してね。

吉田:それがまた大ヒットしたというわけですね。SoulJaさんと佐藤さんを組ませて、ラブソングを作らなきゃダメだと言い、青山テルマさんにアンサーソングを歌わせるというアイデアはどれも秀逸でしたね。

川添:まあラッキーでしたね。村井さん、ついていたね、おれたち。

村井:ふふふ。僕は自分ではね、あまりついていないと思っているんだよ。

川添:ぜいたくを言ったら切りがないよ。

村井:そうか。まあ、ついている方なのかね。

川添:やりたいことをやってきたんだからいいじゃないですか。

村井:それは自信を持って言えるね。やりたくないことは一切やっていない。

川添:そうそう。それなりに幸せな人生だったよね。

村井:そうだね。やっぱり作品を残せたということと、昔から付き合いのあるミュージシャンとの縁がずっと続いていることとかね。新しいミュージシャンとの付き合いもね。

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