福原遥、1stアルバム『ハルカカナタヘ』から見る歌声の可能性 豊かなサウンドとの親和性に迫る

福原遥、1stアルバムで打ち出す“天性の歌声”

 俳優、声優、そして歌手と、幅広いフィールドで活躍を見せている福原遥。2022年に入っては、俳優業では同年後期放送予定のNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』にてヒロイン役を務めることが発表されているほか、歌手業ではデビュー4年目を前にして、6月8日に1stアルバム『ハルカカナタヘ』を発売する。

 同作をレビューする上でいくつかの切り口が思い浮かんだのだが、本稿については収録曲のサウンドと福原の歌声の相性に着目して書き進めたい。俳優による音楽活動の意義については過去の記事にて「ミュージシャン的な巧さだけでは表せないもの(=気持ちの部分)を俳優歌手は持っている」と、ある程度の回答が提示されているため、そちらを参照いただければ幸いだ(※1)。

 さて、なぜ前述のような切り口を選んだのか。誤解を恐れずに言えば、『ハルカカナタヘ』が“声優アーティスト”による音楽作品のようなテイストで、少なくとも筆者の耳には馴染んだからだ。

 例えば、2曲目「透明クリア」のサウンド感。プリズムな印象を与えるトラックには、2010年代前半〜中盤のアニソン/インターネットミュージックの影を感じられる。続く本作のリード曲「道標 feat. Hiplin & Rin音 (Prod. GeG)」では、福原のナチュラルオートチューンを備えたかのような歌声に驚くことだろう。筆者はなぜ本アルバムに“声優アーティスト”的なテイストを見出したのか。答えは簡単で、彼女の“優”れた“声”のよさがこれ以上なく打ち出されているからである。

福原 遥 『道標 feat. Hiplin & Rin音 (Prod. GeG)』Music Video

 「道標」を手掛けたのは、2021年に「YOKAZE」でスマッシュヒットを記録した、変態紳士クラブのGeG。温かなキーボードを基調とするメロウネスなトラックを作らせたら右に出る者がいない注目のプロデューサーである。彼がこれまでに制作した「I Gotta Go feat. kojikoji, WILYWNKA & Hiplin」などを知っていれば、福原の歌声との相性のよさは自ずと想像がつくはず。よく言われるアニメ声とはまた少し違う、清涼感といい意味で“くぐもり”のある天性の歌声なのだ。今回はHiplin、Rin音といった客演参加のシンガー/ラッパーと並ぶことで、そのピュアさが楽曲の主人公像をより等身大に引き立たせてくれている。

 また、同曲では福原が自身が歌うバースの作詞にも初挑戦。アルバムタイトルにも通じる〈『ハルカカナタ』〉というワードが登場しながら、夜と星をモチーフに大切な人がいるからこそ夢に向かって頑張れる、というテーマを温かく描いている。時にネガティブになったり、涙を流す日があっても、〈君〉の存在があるから前を向ける、そんなことが素直に伝わってくるようだ。子役時代から夢に向かい歩み続けてきた福原だからこそ、説得力ある内容になっているように思う。

 4曲目以降には、蒼山幸子(ex:ねごと)プロデュースの「シャボンのひと」や、みゆはんが作詞作曲を手掛けた「スキップサイダー」、さらには2021年12月発売の4thシングル表題曲「Lucky Days feat. OKAMOTO’S」など、新作〜準新作な位置づけの楽曲が。このあたりからアルバムはポップスの方面へと舵を切るわけだが、同世代に刺さるようなメロディラインが随所に散りばめられている。福原自身の青春を彩ってきたのだろう楽曲や、当時の雰囲気を想起させるサウンドが鳴り続けるのだ。

福原 遥 4th Single Lucky Days feat. OKAMOTO'S Music Video ( TVドラマ 『アンラッキーガール!』主題歌 )

 思えば、『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』で演じた“まいんちゃん”に代表される通り、福原は現在の20代にとってカリスマ的な存在だったと言っても過言ではない。そんな彼女が自分たちと同じ青春時代を過ごし、そのなかで様々な楽曲に触れて、そしていまなお同じ時代に生きている。こうした想像を音楽を通してさせてくれるのが、本作収録の楽曲たちだ。前述したリード曲に、最新のヒットメイカーであるGeGを起用したあたり、彼女を身近な存在だと感じたリスナーも多いのではないだろうか。

 一方で、懐かしさや青春という視点では、8曲目に置かれたRake「100万回の『I love you』」のカバーが象徴的である。まさか2010年代初頭の大ヒット曲をまるまる歌い上げてしまうとは。福原がこれまで歩んできた時間の流れを感じたのは、彼女と同じく1990年代に生まれ、2010年代に高校・大学時代を過ごしてきた筆者だけだろうか。

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