草なぎ剛を紐解く言葉:俳優、ビンテージ、優しさ……信念やこだわりを貫く、シンプルな人間像

「僕は道がふたつあったら、楽しそうなほうに行く。後悔しないほう。その道が楽かどうかはわからないけど。はたから見れば、リスクを取って新しい道に進んだようにも見えるのかもしれないけど、結局はシンプルに、自分のやりたい道に進んだっていうことなんです」

 これは2021年10月3日付『朝日新聞』に掲載された、草なぎ剛のインタビューでの言葉である(※1)。草なぎの人間像をあらわす際、キーワードになるのが「シンプル」と「道」である。このふたつをもとにした彼のスタンスは、1987年にジャニーズ事務所へ入所し、SMAPを経て、現在の新しい地図などでの活動まで、おそらく一貫しているのではないだろうか。

 YouTubeチャンネル『ユーチューバー 草なぎチャンネル』の2022年3月26日配信回でも、自分自身について「大人って裏表を変えたりするじゃないけど、ストレートに言うより、大人としてこうなのかなって気を使われる。それはかえって面倒くさい。なるだけシンプルに」と、人との関係性や考え方においては回り道をあまりしないと語っている。

 しかし、シンプルさを求めるゆえに、自分が進む道に対して信念やこだわりを感じさせる。

俳優:草なぎの俳優面の魅力

 草なぎが出演する映画やドラマは不思議と“道”を意識させるものが多い。たとえばドラマの代表作『僕と彼女と彼女の生きる道』(フジテレビ系/2004年)。同作で草なぎが演じた小柳徹朗は家庭を顧みなかったために妻に出て行かれ、娘とふたりで暮らすことになった。自分の手で娘を育てていく決意、そして勤め先の銀行を辞めて本来の夢を追い求める姿。まさに新たな道を探す物語だった。

 草なぎの出演作のなかでも筆者が傑作視する映画『任侠ヘルパー』(2012年)と同テレビシリーズ(2009年/フジテレビ系)もそうだ。演じた翼彦一は、任侠道で生きながら介護施設でヘルパーとしても仕事をする男。誰も真似ができない、我が道を行く人間だ。一方で映画終盤の彦一の決断について、草なぎは「彦一はせこいんですよ。そういうところが魅力的で、好きなんです。人間らしいなあと。ずるいし、せこいし、なんか面白いですよね。(中略)ただ単に強いだけじゃなく、かっこいいわけでもなく、すごく無謀でバカだし。それが憎めなかったりしてね」(雑誌『キネマ旬報』2012年11月下旬号/キネマ旬報社)とキャラクターの人間性が押し出された選択を支持した。

 『第44回日本アカデミー賞』にて最優秀主演男優賞に輝いた『ミッドナイトスワン』(2020年)で演じたトランスジェンダーの主人公も、葛藤を抱えながら自分の道を貫いた。徳川慶喜役だった『青天を衝け』(2021年/NHK総合)では、渋沢栄一(吉沢亮)に「尽未来際」と未来への道のりを説いた。ほかにも舞台『蒲田行進曲』(1999年)、映画『黄泉がえり』(2003年)など、草なぎが扮する多くのキャラクターは自分の人生の道に目を向けている。

 『任侠ヘルパー』で共演した香川照之は、『キネマ旬報』2012年11月下旬号で草なぎについて「役に憑依するというよりは、自分自身を引きずり出してくるタイプの俳優」と語っている。自分の行く道について度々言及してきた草なぎが、“生きる道”を模索するキャラクターと相性が良い理由が頷ける分析である。

 そうやって「自分を引きずり出してくるタイプ」だからこそ、役への浸透度も深い。『キネマ旬報』2008年6月上旬号で、映画『山のあなた 徳市の恋』(2008年)の石井克人監督が「普通は『もっとこうして』と言うところを、抑える側になるのが楽しい」と振り返ったほど、入り込み方がすさまじかったという。

 草なぎは、2021年4月3日付『朝日新聞』でこのように語っている。

「僕は良い意味で、『役者』というものにあんまりとらわれずにいたい。それが強みでもあると思うんですよ。(高倉)健さんにも(大杉)漣さんにも、僕はなれない。お二人とも素晴らしくて、すごい方だから。どうせなれないならどうしようかなと思うと、やっぱり常に、自分の道を模索しながらやるしかないと思うんです。僕はユーチューブもやっているから、『俳優チューバー』みたいな新しいジャンルを目指していこうかな」(※2)

 彼にとってやはり“道”は重要なテーマだ。その道中で積んだ経験を、素直に演技に生かしているのだ。それが俳優としての草なぎが評価される理由のひとつではないだろうか。

ビンテージ:ジーンズ、ギターなど多くの趣味を持つ一面

 こだわりを持つという点では、ベストジーニストとしての一面にも触れなければならない。1999年から5年連続でベストジーニストを受賞して殿堂入りを果たした。

 『OCEANS』のインタビューでは、「何歳になってもデニムは見るだけで心躍りますね。昨晩も遅くまでデニムの整理をしていたんです。年代別に分けたり色のトーン順に並べ変えたり。ウイスキーのロックをちびちびやりながら、何も考えずに夜な夜なデニムに触れている時間が最も落ち着くというか、至福の時間です」と、ジーンズを“アテ”に酒をたのしんでいるという(※3)。誰にとっても馴染みのあるアイテムに対する、自分流のこだわりをうかがわせる内容だ。

 ギターへの愛着も深い。ジーンズ同様、こちらもビンテージものを何本か所持している。2022年5月1日付の『朝日新聞』では、ドラマ撮影でアメリカ・ミシガン州のカラマズーへ行き、かつてそこに楽器メーカー・ギブソンが工場を構えていたことについて「僕が持っている何本かのビンテージギターがここでつくられたと思うと感動しました」と語っている(※4)。

 なぜ草なぎはビンテージを愛するのか。それは「時間が経っても変わらないところ」だと明かしている。自著『クサナギロン』(2008年/集英社)では、新しいものの良さを踏まえつつ「考えてみたら、やっぱり基本的にデジタルより、アナログの方向に進んできたんですよ。僕はアンティークとか骨董品が好きだし。ジーパンだって150年以上も形が変わらないからこそ、魅力的だと思うし」と話している。

 この考え方も、こだわり抜きながら自分が好きな道を進んでいると言える。

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