カネコアヤノ、柴田聡子、さとうもか……豊潤な個性を進化させ続ける、シンガーソングライター3組の現在地
最後に紹介するのは昨年メジャーデビューを果たし、地元・岡山から上京も果たした、さとうもか。まず、彼女の楽曲には、洗練されたポップネスのなかに根付く多彩な音楽的エッセンスに舌を巻く。特に本人のルーツとして色濃いのはジャズのようだが、そこに留まらない多様な音楽性を甘やかなポップスへと仕立て上げるセンスと、痛みも苦みも隠さず生々しく綴る歌詞に奥深さを感じさせる存在だ。彼女の楽曲には、叙情的ではあるが湿っぽくはなりすぎないリアルな皮膚感覚が捉えられていて、個人的にはその絶妙な温度感に心地よさを感じている。
彼女の直近の作品としては、3月に同時配信リリースされた「愛はもう」と「舟」の2曲がある。「愛はもう」はメロウで浮遊感のあるトラックに乗せて、徐々に変化していく恋人たちの関係性を綴った1曲。ふたりの関係が徐々にラストシーンへと向かうことを感じている主人公の気持ちの揺らぎとキリキリと痛むような想いが切なくも穏やかに描かれている。アコギの弾き語りで幕を開け、繊細で有機的なバンドアンサンブルに至る「舟」は、こちらも過ぎ行く時間と、それと共に変わっていく心の姿を造形しているという点で「愛はもう」と共通しているが、恋愛にフォーカスを当てた「愛はもう」とは違い、子供から大人へと変わっていく人生の変化を描いたような筆致が、より雄大な景色と決意を想起させる。いわば「成長(痛)」の歌とも言えるこの「舟」の編曲には「さとうもかバンド from 岡山」とクレジットされているが、同郷のバンドメンバーと共に作り上げたという点において、さとうのより個人的な視点が綴られた1曲なのではないかと推測する。ちなみに、「愛はもう」では〈君のこと忘れたい 忘れたいよ〉と歌い、「舟」では〈悲しみよ消えないで 私を忘れないで〉と歌っている。この2曲を同時にリリースしたのは意図的なことだったのだろう。
本稿で紹介した3組は、音楽という創作行為の深みと、人が生きることの謎に真摯に向き合いながら、その両方が重なり合う場所で魅惑的なポップスを鳴らしている。変わりゆく心は変わりゆく心として、惑いや決意もそれとして、その音楽に表れる。だからこそ、そのキャリアを追いかけることが面白いし、その時々の作品に表れる変化と人間性に触れることが刺激的なのだ。一過性のバズではない、より長いスパンでその表現に触れていたいと思わせる表現者たち。彼女たちはきっと、同じ場所に居続けることはない。