きゃない、「バニラ」バイラルチャート好調 等身大の“人間のうた”を形成する絶妙なバランス感覚

 そして、今週9位にランクインしている「バニラ」も、等身大の“人間のうた”である。ピアノサウンドがどこか切ないラブソングに仕上がっている本楽曲。「願わくば永遠に愛されるような最強のメロディを作りたい」という気持ちから生まれたというだけあって(※1)、メロディラインは、抜群のキャッチーさである。一方で歌詞に注目すると、人間のリアルな部分がストレートに表現されたラブソングのようにみえて、よく聴き込むと緻密に構成されたストーリーが浮かび上がってくる。きゃない自身も「この曲には『死んでしまって会えなくなった恋人に会いに行く』という裏設定がある。つまり主人公の自殺を歌っているストーリーが2番のDメロの歌詞に隠されています」とコメントしているように(※2)、歌詞に込められた多面的なストーリーは、メロディのキャッチーさとのギャップをつくりだし、歌詞の裏設定をよりいっそう際立たせているように感じる。また考え抜かれた言葉選びは、楽曲タイトルにもあらわれている。「バニラ」というタイトルの着想は、バニラの花言葉が「永久不滅」であることに対して、バニラの花自体は開花1日で枯れてしまう短命なものであり「永久不滅の愛を持って命が終わる」という楽曲のモチーフを体現しているという(※3)。

きゃない - バニラ【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 きゃないの作詞は、誰もが持ちうる気持ちを“人間のうた”として形にした、ある種のドキュメンタリーのように感じられる。どこか現実味があるからこそ、目を背けたくなるようなドロドロした感情も他人事と思えない。そして、強い印象を残す美しいメロディライン。文学的で重い歌詞をキャッチーなメロディラインにのせる手法は、そのバランスが難しく、下手をすると支離滅裂な作品になってしまう可能性もはらんでいる。しかしながら「バニラ」は、自然なバランス感覚で良い違和感を演出することに成功しているのではないだろうか。この絶妙な調和を感じ取るためにも、ぜひしっかり腰を据えて歌詞を読み込み、聴き込んでほしい一曲だ。

※1、2、3:https://realsound.jp/2022/03/post-979275.html

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