AKB48がこれから向かう先とは? 本田仁美らが躍動する「元カレです」MVを徹底考察
AKB48の59thシングル表題曲「元カレです」のミュージックビデオが4月20日に公開された。5月18日にリリースされる同曲は、本田仁美が初めてセンターをつとめ、また難度の高い振付が話題となった前作「根も葉もRumor」を超えるダンスが繰り広げられるなど、AKB48のさらなる飛躍を決定づけるものとして期待をあつめていた。
ミュージックビデオはとにかく圧巻だった。まずはストーリー性。藤本実監督は公式コメントで「『根も葉もRumor』で女子高生たちがダンスの日本大会で優勝して、次は日本代表として世界大会に出演するというコンセプトから今作をイメージしました」と、作品にこめたメッセージを解説(※1)。
「根も葉もRumor」のミュージックビデオでは、“高校ダンス部のドキュメンタリー”をテーマに、実際の学校を使用して撮影された。若者たちがダンスに打ち込む模様を描いた青春群像劇となっており、振付を担当した神田橋純が顧問をつとめる三重高校ダンス部・SERIOUS FLAVORも作品に登場。観ているこちら側にまで汗が弾け飛んできそうなくらい、エネルギッシュな内容となっていた。
「根も葉もRumor」でセンターを担当した岡田奈々は、そのミュージックビデオの冒頭で「ダンスは苦手」と語っていた。しかし全員一丸となることでそれらの課題を少しずつ克服。いろいろな思いが積み重なったラストからは、すべてを出し切ったことへの達成感がひしひしと伝わってきた。
ただ、物語はそこで終わらなかった。「元カレです」で藤本監督が思い描いたのは、そのストーリーの続きである。彼女たちのゴールはまだまだ先にあることを、このミュージックビデオでは示していた。たとえば衣装。前作の衣装であり、AKB48の象徴のひとつである制服から、今作ではタイトなパンツ衣装に変わった。それは彼女たち自身の成長を表現しているようでもあるように思う。
藤本監督が「世界大会」と口にしているように、AKB48がそうやって成長・進化を遂げて向かう先は、日本だけではなく、世界の音楽シーンである。どこにでもある学校のグラウンドで汗を流しながら歌い踊った少女たちが、世界のきらびやかな舞台で活躍する。IZ*ONEでの活動を経た本田を中心に据えたことも含めて、「元カレです」とそのミュージックビデオは、“私たちはこれから世界へ羽ばたく”という声明のようにも感じられる。
また、照明の動きも驚異的だった。ただ、決してこれみよがしに照明技術を際立たせたものではなかった。2021年開催の東京2020パラリンピックの開会式でLEDの演出に参加した藤本監督。そうしたこれまでの作品を鑑賞してみると、いずれもダンサーらの身体性や運動を基調にしながら光を組み合わせている部分が特徴的だった。
「元カレです」でも、メンバーの振付や呼吸に合わせるようにして照明が動いている。たとえば序盤、本田が腕を上げて合図を出す場面。照明は彼女のその合図に頷くようにして動く。作品をきらびやかに飾り立てるだけの装置ではなく、メンバーの動きに合わせて反応しているように見えるのだ。だから、まるで照明が生きもののように感じられるのではないか。
藤本監督の「舞台セットは動かないもので、“演者の後ろにあるもの”という概念を壊したいなって思っていて。アーティストと空間が一体化するというテーマを今回やってみよう!と」、「アーティストを主軸におきながらも空間をずっと拡張し続けるMV」という言葉はまさにその通りである。