椎名林檎×おじゃる丸、ザ・クロマニヨンズ×さかなクン……“相思相愛”のコラボも 新しいEテレの動向を音楽の視点で見る
新年度を迎え、4月から改編したNHK Eテレ。改編があるのは例年通りなのだが、『おかあさんといっしょ』の夕方の再放送が18時へ移動したことを筆頭に、例年以上に大幅な時間や内容の変更、番組の終了や始動が激しく、驚きの声があがった。子育て中の我が家も、時計代わりにEテレを使うくらいお世話になっているがゆえに、この変化にまだ慣れず、戸惑いを覚える時もあるのだが、近年のEテレで光っている“センス”を感じる番組も、改編後の動向のなかで際立っている。
『ムジカ・ピッコリーノ』『おじゃる丸』に吹く“新しい風”
音楽ファンにもわかりやすいところだと、サカナクション・山口一郎の『シュガー&シュガー』や、『星野源のおんがくこうろん』といった、ほかのチャンネルではあまり見られないディープなテーマを扱う番組が、近年のEテレでは続出している。時代、ジャンル、スタイルに囚われず、スタイリッシュでユーモラス、かつアーティスティックな切り口で音楽を深掘りする。そんな番組の先駆けであり、子ども向けという枠を越えて人気を博しているのが『ムジカ・ピッコリーノ』。2012年から放送を開始し、この春からはシーズン10がスタートした。技法やジャンルに関する専門用語を物語に織り込み、音楽をわかりやすく教えてくれる番組である。シーズン10は藤原さくらや伊澤一葉といった、シーズン9の仲間たちが続投。なお、このラインナップで、昨年の『FUJI ROCK FESTIVAL』にも出演している。
取り上げる楽曲は実に様々で、クラシック、オールディーズ、民族音楽、演歌など、誰でも知っているものから、音楽好きがグッとくるものまで、いわゆる不朽の名曲が取り上げられることが多い。それだけに昔の楽曲(とは言え、バッハの時代からThe Beatlesの時代まで幅はある)が多いが、シーズン10の初回は、久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」(1996年)だった。これまでも、「ばらの花」(くるり/2001年)、「ポリリズム」(Perfume/2007年)など、比較的近年にリリースされた日本のアーティストの楽曲が取り上げられることもあったものの、それほど多くはない。しかも、90年代の日本を象徴するメガヒット曲というのも、長く番組を見てきた人間としては新鮮だった。そんな楽曲が新シーズンの幕開けを飾り、まさにこの回のタイトル通り「新しい風」を感じた。
“長く続いている番組に吹いた新しい風”というと、アニメ『おじゃる丸』も見逃せない。近年は、在日ファンク、クレイジーケンバンド、さらにフワちゃんと、攻めたエンディングテーマが目立っていたが、この春からはじまった第25シリーズのエンディングテーマは椎名林檎の「いとをかし」である。椎名林檎が、デビュー25周年にしてテレビアニメシリーズのテーマ曲を初めて手掛けたのだ。そこには、『おじゃる丸』と同期という縁を感じているところもあるのかもしれない。彼女は、今作に対して「『いとしのお菓子』略して『いとをかし』。そうおじゃるさまにとってはこれはプリンです」とコメントしている(※1)。彼女の『おじゃる丸』に対する深い理解が窺えるが、アニメでも、エンディングテーマが流れる場面では、歌詞が縦書きに映し出されている。これは、『おじゃる丸』も、椎名林檎を深く理解している証。お互いの雅やかな雰囲気という共通点もあいまった、ベストなコラボレーションと言えるだろう。
この相思相愛な物語は、4月から第3シリーズが始まった『もっと!まじめにふまじめ かいけつゾロリ』で、第2シリーズから引き続きエンディングテーマとなっているヤバイTシャツ屋さんの「ZORORI ROCK!!!」でも感じたこと。主題歌に込められた、形式を越える可能性とロマンは、作品そのものも豊かにすると思う。
アニメではないが、相思相愛の主題歌にほっこりしたのが、新番組『ギョギョッとサカナ★スター』で流れているザ・クロマニヨンズの「イノチノマーチ」。さかなクンが魚の魅力を伝えていく番組なのだが、主題歌からは、彼と甲本ヒロトに交流があるという背景も見えてくる。タイトルに魚ではなく命を掲げたところに想いを感じてしまうのは、私だけだろうか。ロックと魚に対するピュアな感性の交わりは、きっと子どもにも伝わっていくはずだ。