にしな、ワンマン公演『虎虎』に表れた表現者としての本質 音楽を通してファンと深く繋がった夜
ここで「今までとはちょっと違う感じの曲」という前置きから4月20日に配信リリースされる新曲「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」を披露。ヒップホップ的なニュアンスもある腰の強いリズムの上でにしなのハイトーンが踊るようなメロウなダンスチューンで、自身の声を楽器のように使う感じが確かに新鮮な楽曲だ。そこから「ケダモノのフレンズ」に進むと、バンドメンバーの身振りに合わせて客席では手拍子が巻き起こる。「U+」ではハンドマイクを持ったにしながこの日初めてステージの前方に歩み出る。でも決して観客を煽ったり、愛想を振り撒いたりはしないところが彼女らしい。そういえば歌っているあいだ、にしなはほとんどお客さんのほうを見ない。バンドメンバーを見たり、後ろを向いたり、横を向いたり。あくまで歌が真ん中にあり、それ以上のコミュニケーションを求めたりしない様子が、ある部分ではにしなという表現者の本質を表しているような気がする。
「楽しい時間ってあっという間で。ワンマンやるって決まってからずっと頭の中はそのことでいっぱいだったけど、始まっちゃったら一瞬でした」。そんな言葉から「たばこばかり吸っている人の歌です」と「ヘビースモーク」へ。さまざまなバリエーションの楽曲を経て自身の原点に帰っていくような流れから、本編最後、未音源化曲「ワンルーム」へ。セリフも交えてすれ違う2人の姿が描かれるこの曲を淡々と歌い上げた。
アンコールでは先ほどの「ワンルーム」で自分のギターの音が鳴らないトラブルが起きていたことを告白し、「悔しいと思っていたので、アンコールで呼んでもらえて嬉しいです」と感謝を述べ、「お伝えしたいことがあります」とドラムロールとともにニューアルバム『1999』のリリースを発表。「アンコールで呼んでもらえたので、皆さんに世界で一番早くお知らせすることができました」という言葉に大きな拍手が起こる。そんな未来に向けた発表が行われた後に歌われたのが、新曲「青藍遊泳」だった。それまでの仲間から離れ、ひとりで音楽をやっていくと決めたときに書いた曲。「この広い宇宙のなかで、私たちがどこまでも自由に泳いでいけるように」という願いを込めた歌が大きな風景を描き出した。そしてラストは「アイニコイ」。にしながかつてバンドをやっていたときに作った曲で、現在ではとても新鮮に映るパンキッシュなロックナンバーだ。あっという間に終わる短い曲を駆け抜けて、バンドメンバーとともに客席に頭を下げたにしな。その表情には、久しぶりのワンマンをやり遂げた達成感が滲んでいるように見えた。