スフィアやTrySailら所属のミュージックレイン、少数精鋭から生まれる音楽への熱量 “ファンファースト”なレーベルカラーを紐解く
スフィアやTrySailといった人気声優ユニットとそのメンバー、CHiCO、halcaらアニソンシーンを中心に活躍するシンガーらを擁するマネジメント&レーベル<ミュージックレイン>。2005年の設立以来、所属アーティストの数は決して多くないが、それぞれの個性と適性に合った音楽活動を推進することで、流行に左右されることのない高水準なポップス作品を常に発信し続け、いわゆる「箱推し」ならぬ「レーベル推し」ができるほど、ファンからの揺るぎない信頼を獲得してきた。
そのように、いまやアニメ・声優音楽を語るうえで欠かすことのできない存在となっている<ミュージックレイン>が、同レーベルの音楽の新たな楽しみ方を提案するプロジェクト「ミュージックレインCDコレクション企画」を、2021年より展開。ここではその紹介を通じて、<ミュージックレイン>およびそこに所属するアーティストたちの魅力を紐解いていきたい。
少数精鋭とはいえ、15年以上にも及ぶ歴史の中で幅広いアーティストや作品を輩出してきたレーベルなだけに、その全貌を掴むのは容易なことではない。だが、「ミュージックレインCDコレクション」の第1弾として昨年11月にリリースされたミックスCD『ミュージックレイン・オールスターMIX "バイブル” mixed by DJ和』を聴けば、現状のレーベルの看板たるアーティストたちの音楽的特徴や代表曲は概ね把握できるはずだ。
J-POP/アニソンDJとして人気を集めるDJ和に加え、ミト(クラムボン)や冨田明宏(音楽評論家・音楽プロデューサー)らアニメ音楽に精通する有識者が「よく分かるミュージックレイン」をコンセプトに選曲を行い、<ミュージックレイン>所属アーティストの楽曲から全38曲をノンストップミックスした本CD。寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥、豊崎愛生の4名による声優ユニット・スフィアのデビューシングル「Future Stream」(2009年)から始まるところにレーベルの歴史と原点を感じさせつつ、アップテンポな楽曲を中心にクイックスタイルで人気曲を次々と聴かせるミックスは、89秒尺のアニソンをメインとした選曲に適した構成で、単純にミックスCDとしても優れた作品と言えるだろう。
先だって触れたように、<ミュージックレイン>の所属アーティストは、各々の個性に沿った音楽活動を行っているのが魅力のひとつでもある。本ミックスCDの収録曲を例に挙げて説明すると、戸松遥は80年代アイドルポップスのオマージュを散りばめた「motto☆派手にね!」(2008年)や田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)が詞曲を手掛けたハイテンションなスカ調ナンバー「Q&Aリサイタル!」(2012年)など、明るい声質を活かしたチアフルな曲調が強み。音楽好きとしても知られる豊崎愛生は、クラムボンの面々が楽曲提供・演奏で参加したファンタジックな変拍子ポップ「Dill」(2010年)をはじめ、多彩なアーティストとのコラボによりオーガニックかつカラフルな音世界を広げている。
大学で声楽を専攻していた高垣彩陽は、凛とした雰囲気のミディアム「光のフィルメント」(2010年)やElements Garden製のハイパーなデジタルロック「Lasting Song」(2019年)のように、歌唱力と表現力の高さを求められる楽曲が中心。そして先日までイギリスに留学していた寿美菜子は、最新の海外ポップスのフレイバーを取り入れた楽曲が多く、本作にもレトロモダンかつガーリーな「I wanted to do」(2018年)、歌ものEDMテイストの「save my world」(2019年)が収録されている。
彼女たちの後輩にあたるTrySailのメンバー3人、麻倉もも、雨宮天、夏川椎菜もまた、それぞれ自分の趣味や適性に合ったソロ活動を行っている。雨宮天はデビュー曲「Skyreach」(2014年)以来、ロックな傾向が強めで、なおかつ歌謡曲好きな一面も。麻倉ももは「パンプキン・ミート・パイ」(2018年)をはじめ、いじらしい乙女心を表現したラブソングを好んで歌っている。ボカロ以降の情報量過密な音楽観も射程に入れたオルタナパワーポップなサウンドで独自の世界を展開しているのが夏川椎菜。田淵智也が手掛けた「クラクトリトルプライド」(2021年)は、普段アニメや声優の音楽に親しんでいない人にも、ぜひ先入観を取っ払って聴いてほしい。