Nirvanaの楽曲が映し出す“ヒーローの裏側にある苦悩” 映画『ザ・バットマン』『ブラック・ウィドウ』から考察
一方で、「Smells Like Teen Spirit」が象徴とするのは、怒りや失望、拒絶だ。バットマンと同じく、孤独な復讐者として生きてきたブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフ(演:スカーレット・ヨハンソン)は、アベンジャーズの中心人物として未来を築いてきたものの、その過去は謎に包まれたままだった。『ブラック・ウィドウ』では彼女が経験した壮絶な過去が紐解かれるわけだが、そこで重要となるのがこの楽曲なのだ。
スパイ養成所であるレッドルームに召集された、選ばれし少女たちの映像と共に聴こえてくるのは、原曲よりもグッとテンポを落とし、ピアノとボーカルの二本軸でアレンジしたマリアJのカバーだ。自我をなくして生きることを余儀なくされ、不要と判断されれば、容赦なく捨てられてしまう。訓練を受ける少女達を背景に〈A denial(拒絶)〉と繰り返されるのが、何とも辛い。少女たちの悲痛な叫びをよりリアルに、ダイレクトに表現するために、本家でなく女性ボーカルでのカバーを使用したのはとても粋な選択だ。
曲特有の陰鬱さが、穏やかな日常と隣り合う裏社会や暴力性とのコントラストをより際立たせ、恐怖や無慈悲さ、悲惨さを、視聴者により強く訴えかける。これこそが『ブラック・ウィドウ』ならではのシリアスな展開を大きく前進させるものとなり、他のマーベル作品とは一線を画す存在となった理由にも大きく貢献するものだったのではないかと、筆者は考える。
心が色づいた場面で聴こえた音楽は、映像と一緒になって心に残る。両作品ともそれだけのインパクトが残る音楽と映像だったに違いない。『THE BATMAN-ザ・バットマン-』に関しては、始まりも終わりもNirvanaがかっさらっていくのだから、なんともずるい。正式なアナウンスは出ていないものの、プロデューサーのディラン・クラークによると「続編は5年以内に公開される」という話もある(※3)。カート・コバーンの化身であったパティンソン版ブルースが、次作でどのような進化を遂げるのか。今作が良かったばかりに、期待が募る一方だ。
※1:https://www.vogue.co.jp/celebrity/article/kurt-cobain-inspired-robert-pattinsons-batman
※2:https://twitter.com/dc_jp/status/1483635326472146944?s=20
※3:https://www.tvgroove.com/?p=88426