2022年のmoonridersは“今”を生きていた 月夜の日比谷野音で目撃した明確な進化
2011年12月17日、moonridersの無期限活動休止を直前にひかえたライブで、鈴木慶一はこう語った。「また、進化したら、どこかでお会いしましょう」。そして2022年3月13日、日比谷野外音楽堂で開催された『moonriders LIVE 2022』で、moonridersは明確な進化を見せたのだ。2014年のかしぶち哲郎追悼ライブ以降、何度か開催されたライブの中でも最高の出来だったことに衝撃すら受けた。今年、平均年齢70歳(夏秋文尚を除く)に突入するバンドだというのに。
moonridersは1975年に結成された日本現存最古のロックバンドだ。2011年12月31日をもって無期限活動休止ーーそれは当時の私の目からは事実上の解散に見えたーーに入った後、ドラムのかしぶち哲郎が2013年12月17日に死去。2014年の追悼ライブ以降、幾度かの休止と再始動を繰り返し、2021年12月25日に「一生涯バンドを続ける」と鈴木慶一が宣言することになった。
その2021年、moonridersには大きな変化が起きた。活動休止以降、長らく新曲を発表しなかったmoonridersが、2021年に「岸辺のダンス」や「クリスマスの後も」といった新曲をライブで披露したのだ。そして年末には、2022年にニューアルバムをリリースすることもアナウンスされた。ラストアルバムかと思われた2011年の『Ciao!』に続く新作だ。
約11年ぶりのニューアルバム『It's the moooonriders』は完成し、4月20日の発売を待つばかりの状況で『moonriders LIVE 2022』は開催された。
ステージに杖をついた岡田徹(Key)が登場し、ファンから拍手で迎えられる。鈴木慶一(Vo/Gt)、武川雅寛(Vn)、白井良明(Gt)、鈴木博文(Ba)、夏秋文尚(Dr)、そしてサポート・メンバーの澤部渡(Gt/スカート)、佐藤優介(Key)も登場。後に、ホーン・セクションとして湯浅佳代子(トロンボーン)、織田祐亮(Tp)、東涼太(Sax)も加えてライブは進行していった。
1曲目の「いとこ同士」から、鈴木博文と夏秋文尚のリズム隊、鈴木慶一と武川雅寛のボーカルの好調ぶりが伝わる。復活後、演奏がもっとも良いのでは……と2曲目の「We are Funkees」の段階で感じた。「モダーン・ラヴァーズ」での鈴木慶一、鈴木博文のボーカルのリズム感も良く、白井良明の鳴らすギターリフのソリッドさは言わずもがな。「I hate you and I love you」ではロックのリフを響かせる。
夕暮れ時の日比谷公園で演奏されたのは、「ゆうがたフレンド(公園にて)」。終盤では、鈴木慶一や白井良明が、「金がない人、手を振ってー!」「金がある人、手を振ってー!」とファンに呼びかけた。「金がない人」ではファンが一斉に手を振り、「金がある人」はぽつぽつという感じだ。
そして、白井良明は不意にこう言ったのだ。「プーチン嫌いな人、手を振って!」。手を振った人が何人いたのかは見ていない。私も肩が脱臼せんばかりに手を振っていたからだ。
「檸檬の季節」は、原曲から様変わりしたアレンジに。「BLDG(ジャックはビルを見つめて)」のリズムは、シンセサイザーと夏秋文尚の生演奏の合わせ技。演奏が一瞬止まると、静謐と夕闇が会場を包んだ。かと思えば、終盤では、ロックオペラのワンシーンのようなスケールの演奏を聴かせた。