Lucky Kilimanjaroのダンスミュージックに宿る“エモさ”の正体 曖昧な言葉の裏にある多様な感情を肯定する姿勢

Lucky Kilimanjaro、“エモさ”の正体

 Lucky Kilimanjaroは3月30日に4作目のフルアルバム『TOUGH PLAY』をリリースすることを告知している。フルアルバムとしては『DAILY BOP』から1年ぶりとなるが、この1年の間に「踊りの合図」や「楽園」といった充実したシングルの連発もあり、俄然アルバムへの期待は高まりまくっている中で、さらなる新曲「果てることないダンス」も先日、配信リリースされた。この曲がまた、「エモい」のだ。言葉で簡単に定義づけることのできない「個」の存在や感情を、この1曲は見事にダンスミュージックのロマンティシズムの中で肯定している。

Lucky Kilimanjaro「果てることないダンス」Official Music Video

 この「果てることないダンス」、熊木幸丸はTwitterで「M1ピアノでハウスかましてます」とツイートしていたが、音楽的には、『DAILY BOP』以降のラッキリが突き詰めてきたダンスサウンドのまた新たな側面を感じさせる1曲だ。「踊りの合図」のカオティックさや、「楽園」のメロウネスとも違う、言うなれば『DAILY BOP』収録の「ON」のような楽曲に通じるフロアで映えまくること間違いなしのハウストラック。歌詞は、熊木がこれまで得意としてきた写実的なストーリーテリングや明快なメッセージ性ではなく、刹那の高揚を捉えるような詩的な言葉の羅列とその反復によって成り立っており、彼らのディスコグラフィにおいても新鮮な言葉が響いている。

どうかしてると思う
やめられないのだ
ここらでゲームオーバー
で、幾数年
幾数年(「果てることないダンス」)

 ラッキリの歌詞としては珍しく意味が読み取りづらく、しかし、それゆえにリアルに響く言葉も印象的だ。どこか内省的にも受け取れる、こうした言葉の連なりが曲にパーソナルな質感をもたらしている。以前、私が「楽園」リリース時に熊木に取材した際、彼は「聴き手の視点に立つのではなく、より個人的な表現をした方が伝えられるものがあるのではないか」と作詞における心境の変化を話していた。この「果てることないダンス」は、より個人的な視点へと向かっていく熊木の歌詞表現に対しての考え方の変化が如実に表れた1曲と言えるのかもしれない。いわば、他者の「エモさ」だけではなく、熊木幸丸が自分自身の「エモさ」を音楽の中で肯定しようとした1曲なのではないか。

 あるいは、私の手元にあるレーベル資料の中の熊木によるライナーノーツによれば、歌詞の中に登場する〈教えてくれたCH〉というラインの〈CH〉とは「Calvin Hariss」を意味し、〈I Found Big Love〉というラインは、カルヴィン・ハリスによるリアーナの2011年の大ヒット曲「We Found Love」と、UKハウスの大御所ピート・ヘラーの1999年の名曲「Big Love」から来ているという。思い返せば、去年行われた日比谷野外大音楽堂でのワンマンでは開演前の会場BGMに「Big Love」が流れていた。「果てることないダンス」は、熊木が自身の原風景にある1990年代~2010年代のダンスミュージック(と、その歴史)への愛を表明した1曲として受け止めることもできるだろう。

 ダンスミュージックから「楽しい」や「盛り上がれる」といった効能だけではない、より深い人生哲学を掴み取って私たちに提示してきたのがラッキリであり、熊木幸丸というソングライターである。彼の生み出す魅惑的なダンスミュージックの中で、反復するビートは未来へ向けて流れゆく時間を能動的に生き抜く生活者の意志へ結びつき、そのグルーヴに乗せて動く肉体は、個人と社会との関わり方の新しいバランスを模索し、より深く自分自身の実存を探ろうとする探求の起点となる。「果てることないダンス」は、そうしたラッキリが提示してきたダンスミュージックの神秘をより純粋な形で捉えようとした楽曲であるように私には思える。

I need dance dance dance dance
山でも谷でもダンス
続いていくよストーリー
教えてくれたCH
喜びも悲しみも
全部乗っけて踊れると
体じゃなくこの反応こそが私だと(「果てることないダンス」)

 振り返れば、私は『DAILY BOP』リリース時の取材で熊木に「何故、自分はダンスミュージックに惹かれると思うか?」と質問したのだが、そのとき、熊木は「自分でも具体的なことはよくわからない」と答えていた。彼がこう答えたのも無理もない話で、そもそも質問自体に無理があるのだ。「好き」に理由なんて必要ないし、そもそもダンスミュージックとは自分自身の内側に「答え」ではなく「問い」を発生させることで、生の実感を掴み取りに行くようなアートフォームである。

 同じフロアで踊る他者と自分の距離感や関係性、連続するビートの中で一瞬一瞬を噛み締めながら、まだ見ぬ自分自身に出会うような感覚――そうしたダンスミュージック特有の体感の中で得ることのできる幸福は、私たちの思考というよりは「生」そのものに密接にリンクするがゆえに言語化しがたく、しかしそれ故にリアルだ。〈体じゃなくこの反応こそが私だと〉――この「果てることないダンス」の一節に、ダンスミュージックの本質が刻まれているように私は感じる。

※1 https://popeyemagazine.jp/post-82427/
※2 https://realsound.jp/2021/03/post-716237_3.html

Lucky Kilimanjaro「果てることないダンス」
Lucky Kilimanjaro「果てることないダンス」

■リリース情報
先行デジタルシングル
「果てることないダンス」
2月23日(水)より配信中

3rdフルアルバム
『TOUGH PLAY』
3月30日(水)リリース
1.I'm NOT Dead
2.踊りの合図
3.ZUBUZUBULOVE
4.果てることないダンス
5.ぜんぶあなたのもの
6.無敵
7.週休8日
8.楽園
9.足りない夜にまかせて
10.無理
11.Headlight
12.人生踊れば丸儲け
13.プレイ

MUCD-1483/¥2,970.-(including tax)

オフィシャルサイト:http://luckykilimanjaro.net/

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