宇多田ヒカル「君に夢中」バイラルチャート急上昇 非凡なボーカルセンスで描き出す、メロディラインの斬新さ
中でも「君に夢中」は、短いメロディのリピート(歌だけでなくトラックでもメロディの繰り返しがある)、〈Oh 人生狂わすタイプ〉というインパクトのあるフレーズを冒頭に用いて曲中に何度か繰り返しており、バイラルチャートで上位にランクインしてくるのも納得の楽曲。だが、前述したような宇多田ヒカルの凄さは、トラックに交わることなく歌メロが独自で進行していく構成と、ボーカルアプローチにこそ感じられる。ふわりと舞い上がるような高音、そっと着氷するような一音の置き方、トーンの中でファルセットを使いすぐに戻ってくるスキルなどで、軽やかさとエレガントさを同時に感じさせる歌声は宇多田ヒカルの専売特許だが、「君に夢中」では、ワンオクターブ下をあえて歌っているような印象的な低音を聴かせている。普通はグラデーションで聴かせるボーカリストとしてのレンジを、点と点で聴かせるような斬新なアプローチだ。これもきっと、彼女にしか見えないメロディの起伏を歌にした形なのだろう。
最後に。今回の原稿を書くにあたり、Spotifyで宇多田ヒカル楽曲の再生回数を調べてみた。筆者は「First Love」や「Can You Keep A Secret?」がトップソングだろうと想像していたが、再生数トップソングは「Face My Fears(English Version)」(2019年)、2位は「One Last Kiss」(2021年)であった。前者は世界的な大ヒットゲーム『キングダム ハーツIII』のオープニングテーマ、後者は映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のテーマソングという話題性はもちろん、デビュー〜ブレイク期の有名曲を押さえて、直近の楽曲がここまで聴かれているのは素直な驚きである。年末にもうひとつ、宇多田ヒカルの凄さを見つけてしまった。嬉しい。2022年も、バイラルチャートを通して、たくさんの驚きに出会えますように。