King Gnu、ポップミュージックに叩き込む怒涛の革新 隙のない構成が生み出す『呪術廻戦 0』との親和性

King Gnu『呪術廻戦 0』との親和性

 表題曲「一途」はざわついたギターのカッティングから始まるロックナンバーで、彼らにしてはずいぶん速いBPMの上で矢継ぎ早に言葉が放たれ、そのまま一度も速度を落とすことなく(思わせぶりなタメが一瞬あるが、それはカタルシスを高める効果しかもたらさない)ゴールまで突っ切っていく楽曲。余計な装飾のなさ、疾風怒濤のスピード感、中盤はコーラスやハーモニーで色づけがなされるのに、あえて最初の無骨なメロディに戻っていく主旋律の運び方など、かなりストイックな印象が強い。歌うというより畳み掛けるように言葉を放つ常田の歌唱からは、モノクロのハードボイルド、なんて言葉も浮かんできそうだ。

 そんな世界に色をつけるのが井口理のボーカル。常田パートと井口パートは明確に役割が分かれているし、二人がユニゾンで歌う箇所は〈さあ来世に期待ね〉〈一途に向かいます/余力を残す気は無いの〉と妙に柔らかい言葉が使われていて、これもまたハードボイルドな世界にヒビを入れる効果を生み出している。とはいえ、「一途」は全体に男臭く、荒っぽく、アグレッシブな曲であるのは事実。鋭いカッティングでゴリ押ししていく始まり方に、90年代のTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを重ねることも可能である。

King Gnu - 一途

 以前「BOY」のレビューで、King Gnuの魅力はアバンギャルドとクラシックの共存、貴族的優雅さと暴動寸前の熱狂が同居しているところにあると書いた(※1)。その意味で「一途」はアバンギャルド・サイド、熱狂を一筆書きで閉じ込めた1曲に該当する。そしてもちろん、同居する反対側は用意されている。「逆夢」がそれだ。

 ストリングスとピアノから始まる「逆夢」はクラシカルな歌もので、井口の美しいファルセット、セクシーに震える吐息までが伝わってくる名バラード。ストリングスを巻き込んで後半はドラマティックに盛り上がっていくが、ただベタベタと甘いわけでもないのだ。いわゆるBメロの箇所は弦楽器がピチカートで柔らかなリズムを刻み、艶っぽいフラメンコ風のギターがさらっと登場するのみ。この引き算の巧さ、コップの水に一滴の絵の具を垂らすようなイメージの描き方はお見事。優雅でたおやかで、同時に歌謡曲の大衆性や泣きの要素までしっかり押さえている。なんとも隙がない。そういうわけで「一途」は「逆夢」とセットになることでKing Gnuらしさを獲得するのである。

 一方は激しく言葉数の多い高速ロックチューン、もう一方はしっとりしたバラード。このシングルパッケージは昨年12月の『三文小説/千両役者』とぴったり重なるものでもある。もうおわかりだろうが、『一途/逆夢』というタイトルは絶対に偶然ではない。ハードボイルドにはロマンティックが必要だし、真似できない気品の隣には血湧き肉躍る熱狂が必要。文字数までがぴたりとシンメトリーを描いてこそ、King Gnuの仕事は常にプロフェッショナルたりえるのだ。

※1:https://realsound.jp/2021/10/post-884377.html

■リリース情報
NEW SINGLE『一途/逆夢』
2021年12月29日(水)リリース
◎Blu-ray Disc付 初回生産限定盤:¥4950(税込)
◎通常盤:¥1100(税込) 
◎期間生産限定盤:¥1980(税込)
(C)2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会(C)芥見下々/集英社
予約はこちら:https://VA.lnk.to/gaEuD5

【CD収録曲】
01. 一途
02. 逆夢

【初回生産限定盤 Bonus Blu-ray Disc】
King Gnu Live Tour 2020 AW “CEREMONY”
November 25th, 2020 at NIPPON BUDOKAN

開会式
01. どろん
02. Sorrows
03. Vinyl
04. It’s a small world
05. 白日
06. 飛行艇
07. Overflow
08. Slumberland
09. Hitman
10. The hole
11. ユーモア
12. 傘
13. Tokyo Rendez-Vous
14. 破裂
15. Prayer X
16. ロウラブ
17. Flash!!!
閉会式
18. 三文小説
19. Teenager Forever

King Gnu 公式Webサイト

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