PEDROはこれからも生活と記憶の中で鳴り続ける 活休前ラストワンマン、アユニ・Dが伝えた全身全霊の優しさ

PEDRO、アユニが伝えた全身全霊の優しさ

 アユニが全曲の作詞・作曲を手掛けた『後日改めて伺います』には、彼女が見てきた景色や吸ってきた空気が生々しいくらいに詰め込まれている。そして、アルバム全体が纏っているのはオルタナという質感で表された「優しさ」だ。「死ぬ時も笑ってたいのよ」「万々歳」といった田渕によるソリッドなギターリフがライブでは印象的でありつつも、「眠れない夜のお守りになるような曲」とアユニが紹介した「安眠」をはじめとする10曲には、様々な形の優しさが詰め込まれている。その筆頭と言えるのが、アルバム1曲目を飾る「人」だ。人は傷つけたり、傷ついたりして、お互い様で生きている。特にコロナ禍以降、その距離や空気はより敏感なものになっている。だからこそ、人からの優しさに触れた時は、せめて優しい気持ちでいたい。“でも”という、アユニの生きるエネルギーが、涙の海を前へ前へと進ませる。

 そのラストは、なんとも美しい幕引きだった。常套句のような最後の曲のアナウンスなどはなく、終わりに向かっていく『後日改めて伺います』の曲数とアユニの涙をもって、フロアはその終演を覚悟していたはずだ。PEDRO、活動休止前ラストを飾ったのは「雪の街」。アユニが故郷で暮らす家族を思い書いた歌詞は、つい9日前まで全国を巡っていた『SAYONARA BABY PLANET TOUR』で北海道を経たことにより、さらに温もりという情感を持って歌われる。轟音のシューゲイザーが巨大な横浜アリーナを包み込むと、やがてステージはホワイトアウトが起きたかのようにスモークで真っ白に。うっすらと浮かび上がる3人のシルエットが向かい合うその姿は、まさに三位一体というバンドとして完成された形に思えた。田渕、毛利が先にステージを後にする中、アユニは一人ステージに残り、一言「ありがとう」と告げる。会場にはいつまでもギターノイズだけが木霊していた。

 PEDROとは何だったのか。その問いは、一人ひとりの中にきっとあるはずだ。筆者はライブ中、超満員の横浜アリーナの客席が俯瞰して見えた瞬間があった。それはまるで、新幹線の車窓から望む街並みの一軒一軒に生活があるのだと急に実感するような、そんな感覚だった。田渕が客席を見て「近く感じる」と言っていたことも通ずるものを感じさせる。心の距離、人の温もり。アユニは聴く人の心の中で作品が生き続けられたらと願っていたが、これまでもこれからもPEDROの音楽は何気ない日常の中で鳴り続けていくのだと、客席を見ていてそう思えた。PEDROとは、アユニ・Dにとっての生活と記憶そのものであり、聴く人の生活と記憶でもあり続けたはずだ。それぞれの生活は続いていく。その先の未来で、再びPEDROはゲリラ的に我々を驚かせてくれるはずだ。またどこかで。

PEDRO / 雪の街 [さすらひ Live at YOKOHAMA ARENA]

■セットリスト
PEDRO『さすらひ』
12月22日(水)横浜アリーナ
1. 感傷謳歌
2. 夏
3. 猫背矯正中
4. GALILEO
5. Dickins
6. 乾杯
7. 浪漫
8. 生活革命
9. pistol in my hand
10. SKYFISH GIRL
11. 自律神経出張中
12. 無問題
13. NIGHT NIGHT
14. 安眠
15. ぶきっちょ
16. いっそ僕の知らない世界の道端でのたれ死んでください
17. 死ぬ時も笑ってたいのよ
18. おバカね
19. 万々歳
20. 魔法
21. 人
22. 吸って、吐いて
23. 雪の街

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