アユニ・Dが開拓する多彩な表現形態 PEDROと青虫、両面から見える音楽的ルーツと等身大の姿

アユニ・Dが開拓する多彩な表現形態

 アユニ・D(BiSH)による歌い手プロジェクト・青虫。その始まりは、とてもひっそりとしたものだった。

 2020年12月、「歌ってみたくて歌いました」「打たれ弱いので優しくしてください」というコメントと共に、YouTubeにkoyori(電ポルP)feat.初音ミク「独りんぼエンヴィー」の“歌ってみた”動画を投稿し、活動をスタートさせている。

独りんぼエンヴィー 歌ってみた【青虫】

 そして2021年1月にくじら「金木犀」、2月にn-buna「夜明けと蛍」の歌ってみた動画を投稿。当初は素性もプロフィールも公表していなかった。でも、声の浸透力だけで、その反響は徐々に広がっていった。2021年2月には、くじらの楽曲「化粧と、feat.青虫」に参加。これをきっかけに青虫の名前を知った人も多いだろう。

化粧と、feat.青虫(Official Video)

 そして8月には、くじらが作詞作曲を手掛けた「ゆぶね」を配信リリース。その時点でも青虫は“無名の女性シンガー”として紹介されていた。その正体がアユニ・Dであることが公表されたのは、2021年10月のことだ。

 そして、11月3日に前述の2曲を含むデビューEP『103号』がリリースされた。

 こうして時系列を辿ってみると、改めて、興味深いポイントが2つある。

 ひとつは、BiSHやアユニ・Dという名前に関係なく、歌声の持つピュアな魅力だけで青虫という歌い手に惹かれた人たちがたくさんいるということ。特に「化粧と、feat.青虫」のYouTubeのコメント欄に綴られた感想の数々がそれを証明している。クリエイターのくじらが描き出す、切なくセンチメンタルな楽曲の情景とのマッチングも大きかったはずだ。

 そしてもうひとつ、BiSHだけでなくソロバンドプロジェクトのPEDROとしての活動も活発化し、様々なターニングポイントを迎えていた2021年に、アユニ・Dが青虫としての新たな表現領域を開拓していた、ということだ。

PEDRO 3rd Full Album「後日改めて伺います」発売決定!!

 PEDROは、2月には初の武道館単独公演『生活と記憶』、8月からは全国ツアー『SENTIMENTAL POOLSIDE TOUR』を開催。11月17日には全10曲すべての作詞作曲をアユニ・D自身が手掛けた3rdフルアルバム『後日改めて伺います』をリリース。同日にはニューアルバムのリリースを記念したワンマンライブをZepp Tokyoで開催し、アルバム収録曲を曲順通り完全再現したライブの模様はYouTubeでも生配信された。そして、PEDROは12月22日の横浜アリーナ公演『さすらひ』をもって無期限活動休止することも発表されている。

 先日にはリアルサウンドで田渕ひさ子へのインタビューも行ったが(※1)、間近で見てきた彼女ならずとも、PEDROでの活動を通してアユニ・Dがミュージシャンとして、そして表現者として目覚ましく成長してきたのは明らかだった。ツアーを重ねるごとに、PEDROは3ピースバンドとしても着実に地肩を強くしていった。こうしたフィジカルな熱量の高いライブステージでの音楽活動が大きくなっていくのと並行して、アユニ・Dは「打たれ弱いので優しくしてください」と、より内向的で匿名的な青虫のプロジェクトを始めた、ということになる。いわば表裏一体のスタンスだ。

PEDRO / 吸って、吐いて [OFFICIAL VIDEO]

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