Kitri、しなやかに広げていくポップスの可能性 ホールが鮮やかな演奏で満たされた『キトリの音楽会 #4』
そのまま最新曲「ヒカレイノチ」へ。このパフォーマンスが素晴らしかった。前述した通り、Kitriが真っ向からポップスに挑んだ曲だが、ホールの空間で聴いていると、Kitriは正真正銘、普遍的なメッセージを歌えるアーティストに成長したのだということを実感した。誰にもわかってもらえない心の痛みや、大きな夢を抱けない臆病さ。そんな素直な気持ちを一切否定することなく、日々のほんの少しの喜びを糧に生きていければ、それで十分だし、むしろそれが一番大切なこと。何気ない感情の機微を、今のKitriは肯定することができるし、そこから目を逸らさず音楽にしてきた2人だからこそ、広い会場で鳴らしても説得力が漲る。冒頭で「ポップスとしての完成度も体得してきている」と書いたが、それは技術的な面だけでなく、音楽をやる上でのアティテュードそのものが一段とたくましくなったということだ。吉良が1番ではクラリネット、2番ではチェロを奏で、飽きさせないアレンジになっていたところにも聴き応えがあったし、羊毛のギターが楽曲に勢いを与えながらMonaとHinaをバックアップする姿も美しかった。
そして、ライブで定番になりつつあるカバー曲のコーナーでは、「メロディとストーリー性のある歌詞に惹かれた」という、B’z「いつかのメリークリスマス」を披露。意外な選曲に驚かされるが、エネルギッシュに歌い上げている原曲に対し、Monaらしい繊細なボーカルアプローチで切なさを演出していく。本編ラストを飾った「Lento」では、音源と違ってピアノを一切弾かず、演奏の大半をギターに委ねて、終盤をチェロが彩るという斬新な構成に。MonaとHinaが歌に専念できるのも、4人編成ならではの演出だろう。〈あなたがいて わたしがいる/なんて当たり前なことだろう〉という歌詞は、“当たり前の尊さ”を歌ってきたKitriの優しさが顕著に表れたライン。だが、1stアルバム『Kitrist』の直後、コロナ禍を経て「当たり前なんてない」ことを痛感したからこそ、リリース時とは違う心持ちで歌っている曲なのかもしれない。そんな状況でも着実にリリースを重ね、ツアーが延期しながらも、音楽を届けることを諦めなかったKitri。〈かけがえのない日/優しい日々も/凍えた日々も/覚えている〉という「忘れないことの大切さ」を歌うラインも、一層の切実さをもって響いてきた。
最後にアンコールで披露されたのは、Kitriの始まりを象徴する1曲「羅針鳥」。音源でピアノが担っていたメロディをチェロが奏でることで、曲全体も自然とゆったりしたテンポに。この曲は、『Kitrist II』の中でリアレンジバージョンの「羅針鳥(S.A. Rework)」として生まれ変わっていたが、代表曲をその時々の心持ちに合わせて柔軟に変化させるのは、きっと容易いことではないはず。だが、この日のライブを観てもわかる通り、変わらない軸を持って、どこまでも変化していくのがKitriの面白さ。クラシックをポップスと掛け合わせ、姉妹の連弾で無二のオリジナリティに昇華していくーーそんな刺激が一番に詰まっている曲が、「羅針鳥」なのかもしれない。MCによれば、Kitriはいま映画の劇伴に取り組んでいるという。2021年は確実に音楽の幅が広がった1年だったが、来年もその進化は止まらないようだ。温かなライブの余韻に浸りつつ、今後の続報も楽しみに待ちたい。
■セットリスト
『Kitri Live Tour 2021 AW キトリの音楽会 #4 “羊飼いの娘たち”』
12月18日(土)恵比寿 ザ・ガーデンホール
プレイリストはこちら
1.マ•メール•ロワ No.3(クラシック曲)
2.シンパシー
3.NEW ME
4.水とシンフォニア
5.赤い月
6.傘
7.Lily
8.時の詩
9.一新
10.青い春
11.矛盾律
12.ヒカレイノチ
13.いつかのメリークリスマス(B'zカバー)
14.Lento
EN.羅針鳥