THE BACK HORN、ディープなアンセム満載のスリリングな一夜 『マニアックヘブンツアーVol.14』で示した前へ進む決意

 THE BACK HORNが『マニアックヘブンツアーVol.14』最終公演を2021年12月5日、新木場 USEN STUDIO COASTで開催した。『マニアックヘブン』はTHE BACK HORNのメンバーが企画・演出を手掛ける年末恒例のイベント。今回の「Vol.14」は、2017年のVol.11以来、約4年ぶりとなる全国ツアー形式での開催となった。

山田将司

 題名通りマニアックな選曲でファンを喜ばせてきた同イベントだが、“コロナ禍以後、最大の観客数”、“閉館間近となるSTUDIO COASTでの最後の『マニアックヘブン』”ということもあり、いつも以上に特別感のあるステージが繰り広げられた。

 この日はオールスタンディング形式。観客は床に記されたマークの上に立ち、移動は基本禁止。もちろんマスク着用・声出し禁止も徹底された、コロナ禍以降のライブハウスのスタイルだ。

 ダークかつサイケデリックなSEとともにメンバーが登場。静寂と轟音が交互に訪れ、〈人は何故に 夢を見るの/あなたに会うために〉という歌詞がゆったりと広がった「ワタボウシ」(アルバム『心臓オーケストラ』収録/2002年)からライブは始まった。

 自己・他者への否定的な感情が渦巻く「魚雷」(アルバム『何処へ行く』収録/1999年)、欲望だらけの都会を孤独とともに生きる姿を描いた「孤独な戦場」 (アルバム『イキルサイノウ』収録/2003年)と、シリアスで暗い表情の楽曲を続ける。ツアー最終日とあって、緊張感に溢れたバンドサウンドは完全にチューンアップされていた。指先までしっかり力が入った拳を振り上げ、身体を揺らす観客も楽しそうだ。

岡峰光舟

 「普段はできないような楽曲、インディーズの楽曲だったり、隠れた大事な曲を一気にお聴かせしようという企画です。イントロが始まった瞬間、“これはあの曲だ”と思い出せる人、“あれ、これなんだっけ?”と時間がかかる人、いろいろあると思うんですけど、たっぷりと味わって。濃厚で深い夜にいたしましょう!」と、松田晋二(Dr)が丁寧に『マニヘブ』の趣旨を説明した後、「路地裏のメビウスリング」(シングル『悪人/その先へ』収録/2015年)からさらにマニアックな世界へと引きずり込んでいく。爆発音のようなドラムから始まり、切ない疾走感をたたえたメロディとともに〈絶望を溶かして/僅かな愛で限りない想像を描いて〉というフレーズへとたどり着く「さざめくハイウェイ」(アルバム『パルス』収録/2008年)、先が見えないプログレッシブな構成の中で〈今を生きろ〉というメッセージが響く「情景泥棒〜時空オデッセイ〜」(ミニアルバム『情景泥棒』収録/2018年)、超ヘヴィなギターサウンド、和的な怖さをたたえた旋律、怪談的な世界観を刻んだ歌詞が一つになった「墓石フィーバー」 (アルバム『ヘッドフォンチルドレン』収録/2005年)、そして〈胸が苦しいよ 撃ちぬいておくれ〉という絶叫がそのまま爆発的なロックナンバーへと結びつく「アカイヤミ」(アルバム『人間プログラム』/2001年)をつなげ、ディープな音楽世界を生み出した。

 ディストピアを基調した創造性に裏打ちされた歌詞、そこから立ち上がる情景を際立たせる松田、菅波栄純(Gt)、岡峰光舟(Ba)の演奏、山田将司(Vo)の歌。楽曲の世界観とリンクしたライティングやパフォーマンスを含め、『マニヘブ』のTHE BACK HORNには演劇を鑑賞しているようなシアトリカルな魅力がある。一つひとつの言葉を激しくも明瞭に放つ山田のボーカルもそうだが、(演奏曲がまったくわからない)初見の観客であっても、強く引き込まれるはずだ。

 恐ろしいまでの緊張感とスリルに満ちた時間から一転、中盤のMCではあまりにもゆるいトークが展開。

菅波「ここまで回ってきたけど、MCで覚えてること一つもねえな。将司がいいこと言ってたのは覚えてるけど」
岡峰「場所でいうとどこ?」
菅波「え、何いってんの?」

 というまったく噛み合わない会話から、“グッズとして木刀はありか?”“ツアーTシャツをスタッフが着てくれない”とどうでもいい話題へ。自由すぎる雰囲気もまた、このバンドの魅力だ。

 「去年の12月にコーストでやったときは500人で、今日は1200人。それだけ胸が熱くなりますね」(山田)、「今年も状況を見ながら、音楽を届けられたと思います。皆さんのおかげです」(松田)という言葉から、聴く者の感情に寄り添う楽曲が披露された。〈思い出すのはいつも君の顔 笑って〉と語りかける「ゆりかご」(アルバム『太陽の中の生活』収録/2006年)、いつまでもそばにいてほしいという切実な願いを綴った「君を守る」(アルバム『運命開花』収録/2015年)。真剣な表情で歌を受け取る観客の姿も印象的だ。ライブソングとしても成立しているこの2曲は、コロナ禍を経て、すべての大切な人に向けられた奥深いメッセージソングへと成長した。そんな実感がダイレクトに伝わってくる場面だった。

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