”青春系ロックサウンド”だけじゃない? サイダーガールの隠れた名曲から新機軸まで予習復習

サイダーガールの隠れた名曲から新機軸まで

 2014年に結成されたロックバンド、サイダーガール。弾ける泡のように爽快で儚く、様々な色に変化していく“炭酸系サウンド”を追求して活動している。彼らの音楽はリスナーに優しい。日常の出来事を程よい距離感で描いた歌詞や、Yurin(Vo/Gt)の歌声の心地よさ、耳に残るメロディ、聴きやすいサウンド。これらが備わっているため、たとえ心が弱っているときでも彼らの音楽には安心して触れることができる。学校や仕事に疲れたときや、遠い未来への不安を感じたときなどに再生すると、気持ちを切り替えるスイッチになってくれる。そんな音楽が彼らの魅力だ。

 サイダーガールは、2021年12月1日に、“映画館”をテーマとしたニューアルバム『SODA POP FANCLUB 4』をリリースする。本稿では、その発売に寄せて、アルバムの収録曲と、これまでにリリースされた楽曲の中から隠れた名曲をピックアップして紹介したい。

一番の推し曲「シンデレラ」は、アニメ映像とのハマり具合も見事

 まず取り上げたいのは、最新曲であり、ニューアルバムにも収録されている「シンデレラ」。個人的にはアルバムの中で一番の推し曲である。ポップでキャッチーなこの楽曲は、テレビアニメ『古見さんは、コミュ症です。』(テレビ東京系)のオープニングテーマとして起用されている。本アニメは、人と話すことが苦手な女子高生の古見と、ごく普通の男子高校生の只野の交流を描いた青春コメディ。オープニング映像には、古見と只野が黒板を使った筆談で初めて会話するという、アニメ本編のワンシーンが差し込まれている。この作品全体においても非常に重要なシーンに、「シンデレラ」の〈些細なよろこびたちを育てていきませんか〉というフレーズが流れるのだが、楽曲のハマり具合は実に見事。作品の魅力をより深めている。

 また、ミュージックビデオもアニメーションで作られている。2人の女性を主人公にしたストーリーからはシスターフッド的なニュアンスも感じられ、勇気とパワーがもらえる。アニメーションは、青空と海の描写が印象的なシティポップ風。大きな瞳がキュートなキャラクターはもちろん、歌詞に合わせて変化していく四季折々の車窓など背景の美しさも見どころの一つだ。

サイダーガール "シンデレラ"Music Video

 「猫にサイダー」は、サイダーガールが結成される前に知(Gt)がボーカロイドで作ったという、隠れた名曲。ニコニコ動画で公開したところ、歌い手として活動していたYurinが“歌ってみた動画”を上げ、それをきっかけに二人は交流を持つようになったという。そんな、サイダーガールへの布石となったこの曲も、今回のニューアルバムに収録される。初の音源化が叶った幻の楽曲を、じっくりと聴いてほしい。

 彼らの真骨頂である疾走感のある青春曲なら、「群青」をプッシュしたい。結成翌年の2015年に自主レーベルよりリリースした初めてのミニアルバム『サイダーのしくみ』に収録されている作品であり、初期衝動が詰まったエモーショナルなギターロック曲である。Yurinの穏やかな歌声の奥底には確かな熱量が感じられ、韻を踏んだ言葉選びや四字熟語を使った歌詞も印象的だ。2016年リリースの4枚目のミニアルバム『ジオラマアウトサイダー』の「空にこぼれる」も同様に疾走感のあるギターロックだが、こちらは初期衝動感が薄れ、より洗練された印象があるので、聴き比べてみるのも楽しい。

サイダーガール / 群青 (Demo Ver.)

 2020年にリリースされた『落陽/ID』は、それぞれドラマ(『おじさんはカワイイものがお好き。』主題歌/読売テレビ系・日本テレビ系)とテレビアニメ(『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』エンディング主題歌/TBS系)に起用された両A面シングル。どちらも生きづらさを感じている人に寄り添ってくれる作品だ。「落陽」は、本音や本心を隠して生きることが当たり前になっている人に、決して押しつけがましくなく、ワクワクするような言葉で勇気を与えてくれるし、「ID」は理想と現実の狭間で悩む気持ちを歌詞で代弁してくれる。

サイダーガール “落陽” Music Video
サイダーガール “ID” Music Video

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