新進気鋭の歌い手 ロス、“サイコな世界観”にハマるリスナーが続出 歪んだ感情を吐露する快感の連鎖

ロス、“サイコな世界観”の中毒性

 2021年7月リリースされたメジャーデビュー曲「自主」がスマッシュヒットとなったロス。Spotifyの「バイラルトップ50(日本)」で、7月30日~8月12日にかけ2週連続で第1位を獲得。YouTubeでの再生回数は11月24日時点で780万再生を突破し、その勢いは未だ留まることがない。彗星のごとく現れ、すさまじい勢いで存在感を示すロスとは何者か。

自主~はい 私がやりました~

 ロスはいわゆる歌い手として、2019年からYouTubeにカバー動画を投稿するようになった。ニコニコ動画から端を発する「歌ってみた」文化は、ひとつの楽曲を何人もの人間がカバーすることで、歌い手ごとの解釈や表現が生まれ、広がっていくのが魅力。そんななかで、ロスのカバーは、投稿初期より個性的な声音と気だるくも表現力豊かな歌い方で、独自の世界観を持っていた。また、カバーする楽曲も、煮ル果実の「ヲズワルド」やsyudouの「孤独の宗教」など、ダークで退廃的な雰囲気のものを中心的にチョイスし、方向性が最初から一貫していることも注目したいところだ。

 カバーだけでなく、コラボ楽曲でもロスのその雰囲気は大いに生かされてきた。“あなた”に裏切られた私が狂気に走る、なきそとの「げのげ」、虐げられた少女の様子を残酷に描くなうおとの「少女性愛者」など、ダークな作品が次々に生まれていった。

なうお-少女性愛者 feat.ロス

 そして、ロスのオリジナル曲。初めて投稿されたのは今年1月、19秒の「自主」のプロトタイプだ。アレンジはかなりシンプルなものだが、「自主」最大の特徴であるサビ部分がこの時からすでに明確に存在していたことがわかる。これ以降も、かつて受けた“恩”を返す復讐の歌である「通り魔××。」を始め、「浮気??」「身売り」など、ロスは露悪的でダークなテーマを切り取り続けてきた。

 そうやって、あらゆる角度からロスのカラーを確立し、エッセンスを煮詰めていった結果、生まれた結晶が「自主」となった。今こうしてそのキャリアを遡ってみると、必然的なルートを辿っているようにも思われる。

 デビュー曲にしてスマッシュヒットとなった「自主」は、いじめられていた人物が、いじめの主犯格への復讐を決行し、さらにいじめの傍観者たちに対しても制裁の予告を与えるという、さながらサスペンスのクライマックスのようなドラマ性と緊迫感がぎゅっと詰まった作品だ。サビの〈はい!私がやりました!〉というフレーズがとにかく強烈で、TikTokでも、曲に合わせて歌っているように唇を動かすリップシンク動画が大いに盛り上がった。検索すれば、いじめていた側といじめられていた側、強者と弱者が一瞬にして入れ替わる逆転劇をTikTokerたちが演じる、サイコな名作を数多く見ることができる。

 TikTokはもともと、短尺の動画を投稿する場として生まれた。今でこそ3分までの動画の投稿が可能だが、サービス開始直後は15秒までだったことからもわかるように、短い動画を見るために最適化プラットフォームだ。そして、TikTokの繁栄に合わせ、そこで使われる楽曲もそれに適した形に変化していった。すなわち、TikTokで見やすい/使いやすい、数十秒の中にキャッチーなフレーズとメロディが詰め込まれた音楽が生み出されるようになったのだ。

 その世界では、フルサイズで曲が聴かれることはほとんどない。1曲に5分も6分もの時間は必要ない。必要なのは、一発KOで心を掴む、ひとつの強烈で中毒性のあるフレーズだ。それこそがTikTokでの、ひいては、現在の若者の流行の覇権を握るカギだ。

 そうした状況と照らし合わせると、〈はい!私がやりました!〉の一言で世界観に引きずり込む「自主」はまさしく勝ちパターンそのものだ。さらに、これまでロスが投稿してきた楽曲を改めて見渡してみると、投稿されてきたほとんどの楽曲が、1分未満、または1コーラスのみであることに気づく。(結果的にかもしれないが)短尺に特化してきたロスは、時代の流れともシンクロし、「自主」での大きなヒットへと繋がったと言えるだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる