ピーター・バラカンが語る映画『ジャズ・ロフト』 ユージン・スミスと共に蘇るジャズの一時代
“記録マニア”のユージン・スミス
バラカン:彼が住んでいたのは4階で6番街を見下ろす窓があったんですが、その窓の同じ場所からほとんど毎日写真を撮っていたので、それが何千枚も溜まって彼の絵日記のようになっていました。この映画にはそういった写真も実にたくさん出てきます。映像としてはこのロフトのことを語るインタヴューが多く、ユージーン・スミスに関する情報はほとんど彼の写真です。彼はおびただしい数の写真を撮っていて、もう記録マニアという感じですね。彼の上の階にはミュージシャンが住んでいたらしいんですが、天井にドリルで穴をあけて小さなマイクロフォンを通して、上の階で起きていることを事細かに録音していたようです。
黒田:写真だけではなく音声まで録ろうとする執念にはびっくりしました。
バラカン:しかもそれをどこかに発表するということもなく、ただ面白いから記録しているだけという印象なんですよね。でもテープの箱に何が入っているか殴り書きしてあるようです。
黒田:後半、ユージーン・スミスが精神的におかしくなっていく様子を追っているシーンもすごく興味深かったです。彼は暗室にずっと一人で籠ってコツコツ仕事をしているし、写真雑誌の『ライフ』とトラブルを起こしたこともあり、元々性格的に癖のある人なんだと思います。それで彼はどんどん孤立していって、外の世界との繋がりがなくなってしまったことで、より精神的に参っていく様子が描かれていましたね。
バラカン:個性の強いクリエイターは往々にして難しい性格の人が多いと思いますが、その最たるものという印象がありますね。
黒田:沖縄戦に従軍写真家として行ったときの怪我の後遺症でも相当苦しんだようで、食事もほぼできない状態だったと聞きました。牛乳を1日10本飲んだり、オレンジジュースに生卵を混ぜたもので栄養をとったり。そこにさらにウイスキーを煽っていた状態だったらしいので、おそらく固形物が食べられなかったんでしょう。
バラカン:彼は元々ニュージャージーの大きな家に家族と暮らしていたんですが、結局一人でロフトに引っ越していくんですよね。しかも家のローンの返済をしていなかったせいで、家族も立ち退きさせられてしまう。
黒田:最終的には30歳以上年が離れた美緒子さんと結婚して、以前の家庭は置き去りにしたままですからね。
バラカン:その美緒子さんと進めた写真集『MINAMATA』が、彼の最後の仕事になりましたね。彼は2、3日寝ることもなく仕事に打ち込んで、場合によっては覚せい剤を使ってまで仕事をやり通して、終わったらぶっ倒れてしまう。そういったことを何度も繰り返していたようです……。
■配信情報
『BARAKAN CINEMA DIARY』#8
出演:ピーター・バラカン、黒田隆憲
第8回作品:『ジャズ・ロフト』
初回配信:10月25日(月)18時公開
配信メディア:Spotifyほか各種配信サイト
配信はこちら
■公開情報
『ジャズ・ロフト』
全国順次公開中
出演:サム・スティーブンソン、カーラ・ブレイ、スティーヴ・ライヒ、ビル・クロウ、デイヴィッド・アムラム、ジェイソン・モラン、ビル・ピアース、パトリック・スミス、(以下、写真/声のみ)セロニアス・モンク、ズート・シムズ、ホール・オーヴァトン
プロデューサー:カルヴィン・スキャッグス、サム・スティーブンソン
編集:ジョナサン・J・ジョンソン
撮影:トム・ハーウィッツ
録音:ピーター・ミラー
脚本・プロデューサー・監督:サラ・フィシュコ
配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム
原題:The Jazz Loft According to W.Eugene Smith/2015年/89分/イギリス/英語/B&W、カラー/ヴィスタサイズ/5.1ch
(c)2015 The Heirs of W.Eugene Smith
公式サイト:https://jazzloft-movie.jp
公式Twitter:@jazzloft_jp