DEAN FUJIOKAが綴る、新たな時代へ歩みを進める物語 “変異=Transmute”を掲げた意味とは?
10月29日、DEAN FUJIOKAのニューアルバム『Transmute(Trinity)』がデジタルリリースされた。前作『History In The Making』から約3年ぶりのアルバムで、12月8日に全18曲収録でリリースされる『Transmute』の先行デジタルリリース作品となる本作には、7月リリースの最新シングル曲「Runaway」をはじめ、3月リリースの「Take Over」、2019年放送のドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)主題歌/オープニングテーマに起用された「Shelly」「Searching For The Ghost」を含む既発曲に、3曲の新曲を加えた全12曲が収録されている。
『Transmute』というタイトルには、コロナ禍を経て、予測不能な時代を生き抜くためには“変異”(=Transmute)していくことが必要であるという、彼のアティテュードが込められているという。また同じくタイトルに含まれている“Trinity”(=三位一体)は(本稿執筆時点で筆者は詳細を知らないが)、アーティスト・MADSAKI(Kaikai Kiki)によって描かれたアルバムジャケットに登場する3人のキャラクターに象徴されているようだ。変容とは対象的に、絶対的/不変的な構造の関係性と掛け替えのない日常の情景を感じさせるアートワークである。
『Transmute(Trinity)』における彼の音楽の“変異”は、まずDEAN FUJIOKA自身が全作詞を手掛けたリリックから読み取れる。混沌を泳ぎ疲れた迷い子のような〈君〉に語りかける「Hiragana」。ステップを踏み続けることで世界を生きネクストレベルへと進もうとする「Spin The Planet」「Neo Dimension」。過ぎ去った時間と居場所を振り返りながらも、その先に待つ永遠を見据える「Plan B」「Missing Piece」など、1曲ごとに明確なドラマが展開されていく。
そうしたリリックであり物語を着実に伝えようとするアプローチからか、この『Transmute(Trinity)』はこれまでの彼のアルバムと比べて、ボーカルも歌詞もよりダイレクトに伝わってくる。誤解を恐れずに言えば、これまでよりもかなり歌が聴きやすい。無論、過去のアルバムが聴き辛かったという意味ではない。アタックの強いEDMのエッセンスとビートは、端的に言えば“聴くとアガる”という彼の音楽の魅力を構成している重要な要素の1つだし、それは今作でも「Take Over」「Searching For The Ghost」「Go The Distance」などのトラックで堪能することが出来る。
しかしながらポップなナンバーもハードなナンバーも、これまでよりトラックの素材が削ぎ落とされ、今日のR&Bやヒップホップのマナーにも目配りが効いている。どの曲もミックスも含めて非常に歌詞が聴き取りやすく、すっと耳に入ってくるのだ。
さらにトラックはJ-POPからK-POPに代表されるダンサブルなエッセンス、R&B、ダブとあらゆるジャンルが凝縮されている。この点についてはやはりUTA、starRo、Mitsu.J、横山裕章、Yaffle、ES-PLANT、Ryosuke “Dr.R” Sakaiという名だたるトラックメイカー/プロデューサーの貢献も大きいだろう。
過去、「Real Sound」ではDEAN FUJIOKAとR&Bの接近について指摘したテキストも掲載していたが(※1)、『Transmute(Trinity)』はいま最前線で活躍しているトラックメイカーたちとDEAN FUJIOKAのコライトワークスという観点からも大いに楽しめる。個人的にはこれまでも参加しているUTAとの相性の良さもさることながら、トラックとボーカルが絶妙に心地よい位相で聴こえてくるYaffleの「Follow Me」「Made In JPN」にDEAN FUJIOKAの新たな魅力と“変異”的な可能性を感じたが、何よりそのセルフプロデュース力に改めて感嘆する。